『ブギウギ』趣里演じるスズ子の“第一の人生”と重なる? 新曲「コペカチータ」の真価
戦争が終わり、ようやく好きに歌えるようになったスズ子(趣里)。朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)第16週では、そこに女優の仕事が舞い込み、スズ子は喜劇王の“タナケン”こと棚橋健二(生瀬勝久)と舞台で共演することになった。 【写真】『舞台よ!踊れ!』の稽古をする趣里と生瀬勝久 いろいろな疑問が湧いてくる。羽鳥善一(草彅剛)はなぜ、タナケンにスズ子を推薦したのか。マネージャーの山下(近藤芳正)はなぜ、歌手であるスズ子に女優をやらせようと思ったのか。その答えはスズ子が歌唱のテクニック以上に、観客を惹きつけてやまない理由。そして、人を楽しませる興行会社の御曹司である愛助(水上恒司)がスズ子を愛した理由にも繋がっていた。 「福来スズ子より達者に歌う歌手は他にもおる。それでもみんな、こぞって福来さんの歌を聞きにきましたやろ。それは、あんた自身が面白いからや」 「スズ子さんには愛嬌いうか、おかしみいうか、つい目ぇで追ってしまう立たずまいがあるんや」 スズ子は戦後の日本を歌で明るく照らし、ここからさらに歌手として飛躍していく。そんな彼女の“真価”とは何かに迫った今週を彩る曲が「コペカチータ」である。羽鳥善一のモデルとなった服部良一が作曲した同曲は、1946年にスズ子のモデル・笠置シヅ子と、タナケンのモデル“エノケン”こと榎本健一が共演した舞台『舞台は廻る』のために書き下ろされ、翌年にリリースされたもの。ドラマでの善一の台詞にもあったように、笠置シヅ子だからこそ乗りこなせる複雑で不思議なリズムとメロディが特徴的だ。 「ラッパと娘」の中に出てくる「バドジズ/デジドダ」というスキャットと同様に、タイトルの「コペカチータ」は特に意味を持たない言葉だが、どこかスペイン語っぽく聞こえなくもない。実際に伝統的なタンゴのリズムが取り入れられており、情熱的な踊りが眼前に浮かび、思わず身体が動く。目まぐるしく変わるリズムに合わせ、自由に。そうすると、歌の意味はよくわからなくとも自然と楽しい気分になるだろう。〈不思議なこの歌の魅力 君よ知らずや〉〈コペカチータ この意味教えよ〉とのフレーズからも、曲の解釈やノリ方も聴く人一人ひとりに委ねているような印象を受ける。 この曲と同様にスズ子の人生もまた一定ではなく、昭和という激動の時代を背景に慌ただしく変化してきた。梅丸楽劇団の発足と同時に故郷を離れ、一躍人気歌手となるも間もなく戦争が始まり、歌う場所を失ったスズ子。悲しい別れも経験し、一方で愛助との運命的な出会いと自身のもとに集まった楽団員との日々に支えられてきた。終戦を迎え、改めて一人の歌手として立ったと思いきや、今度は女優業ときた。その中には自分の意思で決めたこともあれば、周りに流された結果としてついてきたものもあるが、いずれにせよ「よっしゃ、やったるで」と楽しむ心を忘れなかったのがスズ子だ。想定外でもとりあえずノッてみた先に生まれる“おかしみ”が彼女の歌にも滲み出て、聴く人を不思議と虜にする。「コペカチータ」はそんな彼女の真価を最大限引き出すノリにノった楽曲だ。 第76話では、スズ子の初舞台『舞台よ!踊れ!』が幕開けとなり、ついに「コペカチータ」が披露される。このかなり難解な曲を趣里がどう歌い上げるのか。スズ子の“第一の人生”とも言えるこれまでのエピソードを思い浮かべながら、彼女の歌を噛み締めたい。
苫とり子