能登地震 田植えへ奮闘する農家 地域象徴の米「絶やさず作り続けたい」
米絶やさず作り続けたい
能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県の奥能登地域で、米作りの準備が始まった。農地や施設の復旧が進まない中、手作業で水路を掘って水を引くなど、あの手この手で田植えを目指す。地域農業の象徴である米作りを諦めない──。田植え時期を前に、農業復興へ一歩を踏み出そうとしている。 【写真】購入したポンプで川から水をくみ上げる農家 「復旧工事を待っていたら田植えに間に合わない。古い水路を掘り起こして使おう」 半島の先端に位置する珠洲市三崎町粟津地区ではパイプラインが壊れ、地区内の少なくとも20ヘクタールに水の供給ができなくなった。地域住民でつくる粟津村おこし推進協議会の角野正幸さん(52)が声を上げ、5人で水路再生に乗り出した。水路に覆いかぶさる木の枝を切り、U字溝に堆積した土砂を掘った。 3月5日から始め、延べ100時間をかけ200メートルの水路が復活。3.5ヘクタール分の水を確保した。「作業翌日は全身筋肉痛よ」。同協議会代表、干谷健一さん(57)は、はにかんで言う。「水が確保でき、やっとスタート地点。地域の活気を取り戻すためにも、米を絶やさず作り続けたい」
川の水引いて挑戦 地域支えたい
政府によると、奥能登4市町の2024年産米の作付け見込み面積は、23年産の6、7割にとどまる見通し。5、6月の田植えまでに水路などの応急復旧を行い1700~2000ヘクタールで米の作付けを見込むが、復旧のめどが立たない水田も少なくない。 損壊したため池に代わり、川の水を引いて米作りに挑戦するのが、石川県七尾市の大野木町だ。 ため池修繕が間に合わず、地域の大野木生産組合は米の作付けを断念する。一方、川沿いに農地を持つ農家6戸が自費でポンプを購入。7台を稼働させて川から水を引き、4ヘクタールで作付けする。小川潔さん(71)は「空っぽのため池を見たときは、今年は駄目やなあって寂しくなった。これで今年も作付けできる」と胸をなで下ろす。 同県能登町で米など100ヘクタールを手がける内浦アグリサービスでは3月下旬、水稲苗の種まき作業を始めた。JA内浦町や農家からの委託分6000枚と自社分を合わせて24年産は1万3000枚を育てる。 受託する農地の一部は、津波で海水をかぶり、大量のがれきが流入した。だが、3月上旬には福島県の農家ら20人がボランティアに来てくれたという。当初20ヘクタールは作付けできないとみていたが、復旧が進み、例年通り作付けできる見込みだ。 主食用米だけでなく稲発酵粗飼料(WCS)も作る。社長の東陽介さん(37)は「町内の畜産農家も被災したが、『今年も続けるから欲しい』と言ってくれた。地域を支えていきたい」と意気込む。 (鴻田寛之、島津爽穂)
日本農業新聞