食べもので振り返る朝ドラ『虎に翼』第3回
父と娘をつなぐ焼き鳥とキャラメル
「おいしいものはいっしょに」。 この考え方は、『虎に翼』を貫いている。 40話の優三(仲野太賀)に召集令状が届き、二人きりで川沿いで話をするシーン。 「寅ちゃんができることは、寅ちゃんの好きに生きることです」 という優三の言葉を寅子はその後も繰り返し思い出す。そんなたいせつな時間の中で、二人は「おいしいものはいっしょに」と少ない食料を分け合って食べる。その後、44話で優三の死を知った寅子は、その事実を受け入れるため、はるの勧めで「内緒で思いっきり贅沢」をすべく闇市で焼き鳥を買う。しかしそこで食べることができず、ふらふらとまた川沿いへ。店の女将が焼き鳥を包んで持たせてくれた、その新聞紙で日本国憲法14条に触れるのだ。これまで100話以上を数えるなかでも屈指の名シーン。その直前、寅子は「わけあって食べるって言ったじゃない」と泣く。 しばらく物語が進んだ後、新潟で娘・優未(毎田暖乃)との距離を縮めようと奮闘する寅子。80回で夜中に起きてきた優未がもらったキャラメルを「いま食べちゃだめ?」「だっておいしいもの、一人で食べてもつまんない」とつぶやくシーンは、時を超えて優三を思い出させる温かな時間であり、母娘の距離がようやく縮まった瞬間でもあった。 そんなふうに食べものに彩られているドラマにおいて、花岡(岩田剛典)という、清廉潔白を求めるがゆえに栄養失調で亡くなった人物が登場するのは忘れられない。そんな花岡に、寅子がもらったチョコレートを半分渡すシーンも「おいしいものはいっしょに」の精神だ。
ほかにもたくさん!『虎に翼』を彩る食べもの
ほかにも、猪爪家にことあるごとに届けられる寿司、寅子と航一(岡田将生)との距離を縮めたライトハウスのハヤシライス、そして最初期からずっと寅子たちにとって大切な場所「竹もと」の甘いもの。ここで桂場(松山ケンイチ)が団子を食べている姿が最初に登場するのは5話。そしていま(112話時点)もなお、彼はこの店に通い続けているのだ。 いよいよ残り少なくなってきた『虎に翼』。寅子と彼女を取り囲む人びとがたのしく食事をするシーンを、最後まで見届けたい。 ●番組情報 NHK連続テレビ小説『虎に翼』 作_吉田恵里香 制作統括_尾崎裕和 演出_梛川善郎、安藤大佑、橋本万葉 出演_伊藤沙莉、石田ゆり子、岡部たかし、仲野太賀、森田望智、上川周作、土居志央梨、桜井ユキ、平岩紙、ハ・ヨンス、岩田剛典、戸塚純貴、松山ケンイチ、小林薫 他 プロデューサー_石澤かおる、舟橋哲男、徳田祥子 主題歌_米津玄師『さよーならまたいつか!』 放送_毎週月~土午前8時~、再放送午後0時45分~(土曜日は一週間の振り返りを放送) NHKプラスにて見逃し配信中 ●釣木文恵(つるき・ふみえ) ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆 ●まつもとりえこ イラストレーター。『朝日新聞telling,』『QJWeb』などでドラマ、バラエティなどテレビ番組のイラストレビューを執筆。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。 Edit_Yukiko Arai
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