「朝起きると人が死んでいる」アメリカの“ゾンビタウン”でソン・ジェウンは「祖国に帰りたい」と語った ホームレスになった韓国人移民2世の壮絶人生【2023アメリカは今】
ゴールデン・ゲート・ブリッジなどで知られる米国の大都市サンフランシスコ。11月に開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の取材で中心部を訪れると、都市はすさみ、道ばたにはホームレスとなった多くの人々が横たわっていた。「ゾンビタウン」とも呼ばれる貧困地域で出会った韓国人移民2世ソン・ジェウンさん(45)は言葉を選びながら過酷な半生を振り返った。(共同通信ワシントン支局 金友久美子) 「隠れホームレス」の生活描いた映画「フロリダ・プロジェクト」。舞台になった格安モーテルはその後どうなった? 繁忙期の宿泊料は3倍、姿を消した長期滞在客【2023アメリカは今】
▽岸田首相が泊まった高級ホテルから2ブロック先の貧困地域 サンフランシスコの中心部に位置する貧困地域テンダーロイン地区は、APECに参加するため岸田文雄首相ら日本政府関係者が宿泊した高級ホテルに隣接する。ホテルからわずか2ブロック先からは多くの路上生活者が暮らし、違法薬物がそこかしこで売買されていた。薬物中毒になった人々がまるでゾンビのようにうなだれて歩き回ることから、ゾンビタウンとも呼ばれるようになった。 「ある朝、テントから出ると死んでいる人がいる。1人や2人じゃない」。こう語るソン・ジェウンさんは10年以上前から路上生活を続ける。日本人記者と知って「アジアから来たのか」と、取材に応じてくれた。 ソウル出身で2歳のときに両親に連れられ、米国に移住した。米国生まれで米国籍を持つ弟が頼りだったが、2012年にがんで亡くした。「死んでしまったことを今も受け入れられない」。ジェウンさんは米国籍を申請したが却下され、今は天涯孤独の身だ。
▽親族がいるかも分からないが心焦がれる故郷 渡米後は両親らとフロリダ州やマサチューセッツ州、ロサンゼルスなど全米各地を渡り歩いた。サンフランシスコの教会に勤めていたが、仕事を失い路上に出た。新型コロナウイルス禍以降は、路上生活者が目に見えて増えたと言う。 「ネガティブな理由でこの街に来た人もいるし、支援が得られるからあえて来た人もいる。集まった理由は個人によってさまざまだ」。冬が近づき死者が増えることを懸念するソン・ジェウンさんが長年願うことはただ一つ「ソウルに帰りたい」。親族がいるかも分からず、連絡先も知らない。帰国すべくいろいろな方法を試したが、いずれもうまくいかなかったという。それでも、故郷に帰る日をテントの中で待ち焦がれる。 「名前のスペルを書いてもらえますか」と最後にペンとノートを差し出すと、英語とともにハングルでソン・ジェウンと記し「これが私の名前です」とはにかんだ。