“猫とおじさん”は、何故バズる? 「中年の内なる弱さを猫が引き出す」SNSを席巻する大人気マンガの発明
1998年に日本の女性誌ではじめて「猫」を特集し、パイオニアだったCREAが、終わらない猫ブームが続くいま、12年ぶりに、猫と人との幸せな関係を紐解きます。 【画像】『ねこおじ』ファンも知らない「ねこに転生した社長」特別マンガも! 「CREA」2024年夏号の「猫のいる毎日は。」特集。その一部を抜粋し、掲載します。 数ある猫マンガのなかで、最近気になるのが「猫」と「おじさん」の組み合わせだ。一般的に愛されやすい猫と、愛されにくいおじさん。その相反する存在のケミストリーが、世知辛い現実を生きる私たちの心を癒してくれる。
猫の愛らしさにおじさんの顔芸を重ねるという発明
なかでも人気を博しているのが、毎晩0時前後にSNSに投稿される『ねこに転生したおじさん』。はやりの“転生もの”だが、他と違うのは、猫の背後に、やや薄い色調で転生した魂=リアルめなおじさんが常に描かれる点だ。丸いフォルムと動きがかわいい猫に、酸いも甘いも噛み分けたおじさんの顔芸を重ねて表現するスタイルは唯一無二。読者にとっては1粒で2度おいしい。フォロワーはXだけで57万人(2024年5月現在)で、23年2月のスタートから1年足らずで書籍化され、グッズ展開やアパレルとのコラボ、秋にはアニメ放映も控えている。 「猫」と「おじさん」という組み合わせの何が、多くの人を惹きつけるのか。その魅力を探るべく、作者のやじまさんに話を伺った。
おじさんの深い味わいは珍味。食わず嫌いは損をする?
きっかけは、やじまさんがツイッター(当時)に投稿した1枚のイラストだったという。 「落書きした猫の後ろに、同じ表情のおじさんを描いてみたんです。それが猫の中の人というか、魂っぽく見えたので、軽いネタツイートのつもりで投稿しました」 この投稿が思いのほかバズり、続きを望む声に応える形で描き始めたのが、『ねこに転生したおじさん』。通称『ねこおじ』だ。
おじさんが内に秘めた弱さ、かわいらしさを引き出す猫
「もともと、おじさんを描くのは好きなんです。おじさんのキャラクターって、頑固とか脂っぽいとか、ネガティブな属性が前に出がちですよね。それを、ギリギリ嫌悪感を抱かれない形に落とし込むのが楽しい。ねこおじも本質的にはおじさんなので、若い女性に抱っこされるとか、絵面として忌避感のあるシーンは避けています」 そんな“クセつよ”おじさんも、猫と組み合わせればグッと飲み込みやすい味わいになる。 もうひとりのおじさん=勤め先のコワモテ社長に偶然拾われたねこおじは、「プンちゃん」と名付けられ、一緒に暮らすことに。社長が出勤すると、勝手にテレビを見たり、パソコンから服を注文したりと、やりたい放題。そんな猫らしからぬ行動を知っても「プンちゃん、天才!」のひと言でスルーし、溺愛する社長もどうかしている。 「おじさんって、社会的権威とまでいかなくとも、強い、偉そうなイメージがありますよね。それが猫というかわいいものに翻弄され、否応なく愛情を注いでしまう様子を見たら、親しみが増すんじゃないかと。おじさん自身も、普段は虚勢を張っているけれど、猫になら自分の弱さや、ちょっと幼稚な部分も見せやすいのだと思います」