“全部覚えている”好きだった人に惚れなおし、結ばれない恋の関係は物語の始まりだった|大河ドラマ『光る君へ』第31回
ストレートな道長の愛情表現
道長は、まひろが物語を書きあげると、わざわざ足を運び、そのまま屋敷で読んでいく。いま一番、権力を持つ人だけれど、まひろの前では自然体だ。 まひろの物語を読み、おもしろいと褒めるが、当のまひろは道長が笑って読んでいるのを見てなんだか違う気がする、とつぶやく。これが中宮に気に入ってもらえるのだろうか、と。 そこで明らかになったのは、まひろの物語を実は中宮ではなく、帝に献上しようと思っていたということだ。 正直に言えば、まひろは自分を政の道具に使うのかと言い、引き受けなかっただろう、と道長。まひろもそうかもしれない、と頷く。まひろはまひろで、道長の嘘を見抜いていたし、隠しても互いの本音が見えてしまうのだろう。 帝のために物語を書く。まひろはそういうと、帝のことを教えてほしい、と道長に頼む。この日は屋敷にふたり以外は誰もいない。身分もなにも関係なく、ふたりの時間を過ごす。いつもふたりが会う時間は限られていて、人の目も避けていた。ふたりにとって、とても貴重な時間だったはずだ。 そして、ふたりで一緒に月を見上げる。 「誰かが今…俺が見ている月を一緒に見ていると願いながら俺は月を見上げてきた」と道長。 「月がきれいですね」だけでは収まらない想い。こんなに全力で「あなたのことが好きです」と言えるものなのだろうか。
源氏物語、誕生へ
改めて、今回は道長のまひろに対する愛が溢れている回だった。 賢子と会い、膝に乗せると「母に似て賢そうな顔をしておる」とこれまでに見せたことのないような笑顔を見せる。 自分の子と気がついているか、否か。宣孝から子が生まれたと聞いたときに気がついてたとするなら、自分の子だと認識して膝にのせていることになる。でも、どちらかと言うと、まひろが子どものころの面影を賢子に見て微笑んだ気もする。当時の淡い恋心を思い出したしたのだろうか。だとしたらときめく。ときめく方の説を個人的には推したい。 そんなまひろへの愛が溢れる一方で、正妻や妾に対する態度は甘くない。まひろとのやりとりを見ると、正妻や妾との時間は義務なのでは、と感じてしまう。まひろと、まひろ以外の女性で道長の中で区分されているのだとしたら辛い。正妻である倫子(黒木華)とは、まひろとのことは関係なく、道長との間にすでに溝が生まれている。 まひろは妻にならなかったからこそ、特別な存在になっているのだとしたら……複雑な気持ちになりそうだ。 さらに次回は倫子が、「どうして道長がまひろのことを知っているのか」と問う場面があるようだ。どう応えるのか、道長。 つい、まひろと道長の関係性について夢中になってしまったが、今回の最大の注目ポイントは「源氏物語」の誕生である。物語がまひろに降りてきた。出来上がった物語は一条天皇のもとへ。物語が、どのように人の心を動かすのか、注目したい。 <文/ふくだりょうこ> 【ふくだりょうこ】 大阪府出身。大学卒業後、ゲームシナリオの執筆を中心にフリーのライターとして活動。たれ耳のうさぎと暮らしている。好きなものはお酒と読書とライブ
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