ホンダの成功のエンジン、「ベストパートナープログラム」はなぜうまくいくのか?
ホンダは、緊密なパートナーシップで協力している一方、仕入価格を抑えることにももちろん取り組んでいる。ただし、ほかの自動車メーカーのように、そのためにサプライヤーを締めつけたりしない。「原価企画」というものを通じて、原価管理とサプライヤーの繁栄とのバランスをとっているのだ。 そのため、ある特定部品の製造コストが正確にいくらになるかを把握する必要があり、アメリカだけでも15~20人のチームが目標コストを調べている。このチームが仕入れ対象すべての実際のコストを把握したうえで、目標コストの一覧表を作成している。この一覧表に基づいてサプライヤーと仕入れ価格を交渉するわけだ。 ただし、生産効率の劣るサプライヤーに対しては、その収益性を無視してまでこうした価格水準での製造を強いるのではなく、サプライヤーが目標コストを達成できていない非効率的な要因を特定できるよう協力している。このように、サプライヤーの生産効率を上げることで、ホンダの部品コストを下げているのだ。 サプライチェーン最適化のこうした取り組みを支えているのが、ホンダの「ベストパートナー(BP)」プログラムだ。この名称を見ても、ホンダがサプライヤーをパートナーと考えていることがわかる。 世界的に知られているこのBPプログラムは、品質分析と問題解決の技術を組み合わせることで、次の5つの戦略的改善分野を目指している。 ベストポジション ベストプロダクティビティ ベストプロダクト ベストプライス ベストパートナー 自動車業界での成功を左右するのは、スタイリング、馬力、価格、成約特典などではなく、もっとはるかに重要なものだ。愛される企業の自動車メーカーは、サプライヤーとの関係性が非常に良好、そして、労働組合との関係性も非常に良好だといっていいだろう。おそらくこのあたりに、米自動車産業の生き残りのヒントがありそうだ。数字に基づくのではなく、関係性に基づいた経営戦略と事業戦略が、生き残るために必要な数字の達成につながりうる。 ステークホルダーとの関係性の質と収益が強く結びついていることは、これまでさまざまな業界で確かめられた。これは不思議でもなんでもない。こちらが好意や敬意を抱いている相手といっしょに仕事をするほうが、そのどちらも抱けない相手と仕事をするより、達成できるものが大きい。 サプライヤーとも、パートナーシップの関係で協力したほうが、搾取するよりも、当然ながら実りが大きい。
ラジェンドラ・シソーディア/ジャグディッシュ・シース/デイビット・B・ウォルフ/齋藤 慎子