決める男! 阪神・熊谷敬宥がプロ初のグランドスラムを打ったワケに迫る
【球界ここだけの話】 1軍は試合のなかった6月19日。縦じまの背番号4が2軍施設の鳴尾浜に集まる虎党をわかせた。阪神・熊谷敬宥内野手(27)がキャリア初のグランドスラム。1軍では試合の終盤に起用される〝スーパーサブ〟が、ここ一番の勝負強さを発揮した。 「打席数は上(1軍)だったら1打席あるかないかなんですけど、ファームでしっかり打席に立てたっていうのはいいこと。その中でも結果を出せたのはよかった」 鳴尾浜球場で行われたウエスタン・リーグ、ソフトバンク戦。阪神・大山、ゲラの2軍調整最終戦、ソフトバンクの有望株・笹川の4安打3打点。そんな数々のトピックスを「2番・遊撃」で出場した熊谷がひと振りでかっさらった。 0―6の6点を追う九回、阪神はつないでつないで2点を返し、なおも2死満塁となって熊谷が打席へ。カウント3―2と崖っぷちの6球目。外角への変化球を前でさばいた打球は左翼へ上がり、そのままフェンスを越えてネットに突き刺さった。起死回生の同点満弾。ここまで1軍では5打数1安打だったが、1軍が試合がない日にファームでアピールした。熊谷にとって2019年以来3本目のアーチだった。 守備と走塁のイメージが強いが、打撃にも人一倍強いこだわりを持つ。打撃練習にもルーティーンがある。初めはストライクボール関係なく全ての球をスイング。そして窮屈そうにもゴロを打つ。「どんな球が来るかわからないし、チャンスもない。だから初めは打ちにくい状態から打つようにしている」。最後は強く引っ張って弾道の高い打球でスタンドインで締める。複数ポジションを守れる便利さから試合終盤まで出番が回らないことも多く、出場は21試合にとどまっていたが、チームは今、熊谷の力を必要としている。 14日のソフトバンク戦(みずほペイペイ)で正遊撃手の木浪が左肩甲骨に死球を受け、骨折となり離脱した。主力が離脱したとき、選手層が問われる。開幕から1軍で遊撃を守ってきたのは小幡のみ。抹消となった木浪に代わっては大山が昇格し、遊撃手の補充はなかった。そうなるとその代役を務めるのは熊谷だ。2軍戦に出場したのは遊撃での実戦の機会を作るため。劇的アーチに加えて、守備でもノーエラーで出番に備えた。 「(試合に出場した)そもそものメインは打つことじゃなかった。1試合でそんなにうまくならないし、なれることではない。いつでもショートでも行ける準備をしておかないといけない」
気持ちの面でも、技術の面でも、準備は怠らない。接戦の最終盤に試合を守り、決める一瞬にかけて―。(中屋友那)