単なる「ファンタジー」ではない傑作!七五三掛龍也×吉澤閑也W主演ミュージカル『ダブリンの鐘つきカビ人間』開幕レポート
Travis Japanの七五三掛龍也と吉澤閑也がW主演をつとめるミュージカル『ダブリンの鐘つきカビ人間』が7月3日(水)より東京国際フォーラムで開幕。それに先駆け、7月2日(火)に公開ゲネプロと記者会見が行われた。 【全ての写真】Travis Japanの七五三掛龍也と吉澤閑也を筆頭に秀でたキャストたちが勢揃いした『ダブリンの鐘つきカビ人間』舞台写真(全30枚) 『ダブリンの鐘つきカビ人間』はこれまで2002年、2005年、2015年とプロデュース公演で再演を重ねられてきた人気作。今回が初のミュージカル化となる。 とある山中、旅行中の聡(吉澤閑也)と真奈美(加藤梨里香)は霧のために立ち往生し、ある老人(松尾貴史)の住む山小屋に一夜の宿を求めた。問わず語りに老人が語る昔話に、だんだんと心を奪われていく2人。昔、この土地を不思議な病が襲った。病の症状は人によって違っていた。指に鳥が止まってしまう病。天使の羽が生えてしまう病……中でも最も不幸な病に冒されたのが、心と体が入れ替わり、心は水晶のように美しいものの、誰も近づきたがらない醜い容姿となったカビ人間(七五三掛龍也)だ。一人ぼっちで鐘つきの仕事を行っていたカビ人間だが、病のせいで思っていることの反対の言葉しか話せなくなった娘・おさえ(伊原六花)。と出会う。最初はカビ人間におびえていたおさえだが、その美しい心に触れて、徐々に彼に心を開いていく。しかし心惹かれれば惹かれるほどに、おさえの口から出るのはカビ人間への罵倒の言葉だ。 一方、いつしか老人の話の世界に入り込んでしまった聡と真奈美。病を治すのは伝説の剣・ポーグマホーンであることを市長(松尾貴史)から教えてもらった真奈美は、聡とともに剣を探す旅に出るが……。 何度も再演されていることからわかるように、もともとストレートプレイとして人気の高かった作品。イコール、元の作品の完成度が高いということだ。ミュージカル化となると、どうしてもいろいろな要素が足されたり変化が起きることになってしまう。過去作を知っている演劇ファンは、果たしてどうなるか……? と思っている人も多いだろう。結論から言ってしまおう。そんな不安は、全くの杞憂!! まず、キャストが素晴らしい。七五三掛龍也が演じるカビ人間は、とにかく「無垢さ」が突出しているのと、彼のビジュアルも相まって「カビ人間になる前の姿」が演じずとも観客の脳裏に見えるという意味で、歴代のカビ人間役とはまた異なった印象だ。だからこそカビ人間が虐げられたり、おさえとの交流のあれこれを見るたびに観客は胸がより締め付けられる。それでいてカビ人間が単純に「かわいそう」と同情できる立場ではないことも突きつけられ、感情がいろいろな方向に揺さぶられる。キャスティングの妙に拍手したい。 一方、吉澤閑也演じる聡は、本人も会見で「聡は性格も近いし見た目もほぼ“閑也”」と語っていたが、その通りでまさに「等身大の現代の若者」というキャラクターだ。物語はもともと、劇中での“現実世界”の聡と真奈美のカップルがさらに物語の中に入り込むという入れ子の構造になっているが、聡と真奈美、カビ人間とおさえとい2組のカップルが物語の中で対比できる構図にもなっている。今作はその部分がクローズアップされたことで、作品の構造の巧みさがよりクリアになった印象だ。かつ聡という「観客目線のキャラクター」がいることで、観客自身がこの物語をすんなり受け入れることができるフックにもなっている。これは吉澤が演じたことも大きいだろう。 おさえ役の伊原六花、真奈美役の加藤梨里香の両人も、歌唱力や身体能力とも抜群。2人とも俳優としてのスキルとポテンシャルの高さをいかんなく発揮している。特におさえ役は「口から出る言葉と感情が違う」という設定のため、セリフと彼女の内面が違うということが観客に伝わらないといけない難役。しかしここで、彼女の持つ身体表現能力の高さがものをいう(御存知の通り、彼女はあの『バブリーダンス』で一躍有名になった大阪府立登美丘高校ダンス部の元キャプテンだ)。ダンスという「言葉を使わず表現する」ことに長けた彼女だからこそ、カビ人間への感情の変化が細やかに伝わってくる。おさえ役に関しては、ミュージカルにすることで彼女の内面を“歌”という形で知ることができるメリットも。 それに加え、ミュージカル出演が実に32年ぶりというジジイ役・中村梅雀ののびのびとしながら舞台をしっかりと締めてくれる存在感(見事なベースの腕前も披露!)、ウォーリー木下作品ではおなじみの小松利昌、見事な歌唱力で舞台を牽引してくれる入野自由や竹内將人ら……実力派揃いのキャストが、主軸となる2組をしっかりと支える。