東京五輪延期でアスリートにのしかかる経済負担…1週間の食費6540円に節約の米国銀メダリストも
ジョンソンはパーデュー大で映像学を修めているが、練習を中心にするためフルタイムの仕事に就いていない。夜には食事を配達する仕事をし、妻はウェディング写真家として家計を支えている。代表チームからわずかなお金は出るものの、2人は新しい衣服を買わず、1週間の食費を60ドル(約6540円)以内におさめるてるという。 つつましいという言葉では表現できないほどの節約生活だ。ジョンソンはリオ五輪で銀メダルを獲得した後も、スポンサーを確保できなかった。延期の知らせに胃が痛む思いだったようだが、それでも、新しい仕事を探して、生計を維持し、トレーニングを続行して、東京大会を目指すつもりだという。 米CNBC電子版は、2016年のリオ五輪で米国代表として、フェンシング女子サーブル団体で銅メダルを獲得したモニカ・アクサミットの経済的困難を報じている。彼女は試合などに出場するため2月からヨーロッパにおり、3月13日にはパリの近くで行われるキャンプに参加する予定だった。 しかし、新型コロナウイルスの問題によって、このキャンプは中止になり、しかも、米国に戻るための航空便もキャンセルになって、身動きがとれなくなった。「ヨーロッパに行ったのに試合もできず、お金だけを失ったのです」と話している。 アクサミットはリオ五輪の前にも、クラウドファンディングで活動資金を募ったことがある。フェンシングは、米国でもマイナー競技でスポンサーを見つけることが難しい。これまでも、競技をするために借金をし、クラウドファンディングで得たお金によって返済するような自転車操業をしてきたようだ。
ジョンソンやアクサミットだけが経済的に苦しいのではない。各競技団体からいくばくかの補助はあるだろうが、2015年のフォーブス電子版の取材に対し、米国の競泳選手だったナタリー・コーグリンが「オリンピック選手の平均収入は2万ドル(約218万円)」と話している。 アクサミットのように個人でクラウドファンディングを立ち上げる選手もいるし、米国オリンピック・パラリンピック委員会にも一般市民やファンが寄付できるプラットフォームがある。このプラットフォームには50ドル(約5450円)、100ドル(約10900円)、500ドル( 54500円)、1000ドル(約109000円)、その他の金額と設定されている。その他の金額として1ドル(約109円)だけ寄付することも可能ではある。 現在、米国はいくつもの州で外出禁止令が出ており、一部をのぞいて、ビジネスもほぼ止まった状態である。直近の週単位での失業保険の申請は約328万件で過去最多。共同通信の報道によると、これまでの最多は1982年10月2日までの週で約69万5000件だったというから、この一週間でいかに多くの人が仕事を失ったかがわかる。 アスリートを経済的に支えたいと思っても、米国オリンピック・パラリンピックのホームページから、ためらいなく50ドルを寄付できる余裕を、多くの市民は持ちあわせていない。アスリートも市民も苦境を脱して、延期されたオリンピック・パラリンピックを迎えて、苦労話を分かちあえればよいのだが…。 (文責・谷口輝世子/米国在住スポーツライター)