港町の音源たち 八幡浜市に息づくジャズ・ライブの名店4カ所を巡る
古今東西、港町には音楽がよく似合うという。ジャズの発祥の地は米国の港町ニューオーリンズ。そういえば「港町ブルース」や「海岸通」というヒット曲もあった。南予の港町・八幡浜市にはジャズを看板に掲げ、ロックやアコースティックライブを開催している店があり、市内外から音楽ファンが集い港町の夜を彩っている。 ジャズの店は「ロン」と「R’s(アールズ)」。ライブが楽しめるのは「スモーキードラゴン」と「なんとか なるさあ」で、中心商店街内外のざっと直径200メートル余りの円内に点在している。市外から足を延ばしても気軽にはしごできる距離で、さすがは港町である。春の宵、店をおじゃまして店のマスターにそれぞれの音楽へのこだわりや活動、店の魅力などを聞いた。(高田剣) ■Jazz&Cocktail「ロン」 まず足を運んだのは、新町商店街の中ほどにあるジャズの老舗「ロン」。店に入ると右壁一面に飾られたレコードジャケットが目に飛び込んできた。マイルス・デイビスにビル・エバンス、ビリー・ホリデイ―などなど。いずれも知られたジャズの名盤だ。 創業は1968年。半世紀以上にわたり、港町にジャズを奏で、市内外のファンに愛されてきた。マスターの浜田光政さん(73)によると、スタートは姉2人が始めた「洋酒喫茶ロン」で、名付け親は父だという。70年に浜田さんが引き継ぎその後、店名に「ジャズ」を銘打った。7年前に現在地に移転し、現在は浜田さん夫妻と長男晃安さん(48)夫妻の2代で切り盛りしている。 ■カフェバー「Smoky Dragon(スモーキードラゴン)」 カフェバー「スモーキードラゴン」。店内の天井をロフト風にむき出しにし、客席はステージに向かって後方のボックス席を一段高くしつらえるなど本格的なライブを楽しめる店構えとなっている。カウンターに立つのは柴田和彦さん(58)。粋な帽子と長髪が日本を代表するロックギタリストCharを思わせる渋さを醸し出している。 カウンターのデザインもユニーク。何とエレキギターのネックの形をしている。長さ約10メートルだから本物の約20倍で、丁寧に採寸しポジションマークやフレットも忠実に位置決めして施している。 初めてギターを手にしたのは小学4年の頃。高校以来、切れ間なくバンドを続けており「四国各地のライブハウスに出かけて演奏した時期もあった」という。所有するギターは70本以上。現在は二つのバンドで活動、オリジナル曲やChar、1960~70年代のブルース・ロックを中心に演奏している。 ■food&bar「なんとか なるさあ」 「沖縄料理のお店ですか」―。初来店のお客からそんな質問をあいさつ代わりに受けることもあるという「なんとか なるさあ」。蔵戸のような玄関の戸を開けると、左側のカウンターの三好雄二さん(68)美恵子さん(63)夫妻がにこやかに迎えてくれた。店の奥にフォークギターやピアノが置かれ、興味を持ったお客に「どうぞ気軽に弾いてください」と勧め、自然と交流の輪が広がる。 口ひげを蓄えた穏やかな表情がどこか往年の歌手加川良をほうふつとさせる三好さんは市役所を早期退職して店を開業。今年で15年目を迎える。 それまで2人とも飲食店の経験はなく、第二の人生を歩み出す前に、美恵子さんが趣味のランニングをしながら将来に思いをめぐらせた言葉が店名となった。「どうなるか分からないけれど…。まあ、何とかなるよね」―。 ■Jazz&Booze「R’s(アールズ)」 4軒目は初心に返りジャズの店だ。「R’s(アールズ)」は、階段を上った2階にある。扉を開けばそこはもうジャズ空間。 「学生時代から30歳の頃まで松山にいて、ジャズ喫茶に通い詰めていた。市内に7軒ほどあったかな。でも『一生、会社勤めするのは違う』と思って。自分の好きなことにまつわる商売をしたいと帰郷したんです」―マスターの浜田英規さん(67)は店を出した経緯を話す。 店名は角の丸みを意味する「R角」から。「本当にいいものは、とがってないと思うんですね。リラックスできる店といった思いも込めた」という。奥行きのある店内にはしっとりとした雰囲気が漂う。ピアノやウッドベースが置かれ、壁に往年のジャズプレーヤーたちの写真が掛かる。自身が描いたコンテ絵もある。
愛媛新聞社