10人に1人が「がん診断で退職」 待つのは“収入無”の新たな問題 「がんでも仕事は辞めないで」とサバイバー
コロナ禍の4年間でリモートワークが普及したことも、がんサバイバーの就労に追い風となっている。ハード、ソフト両面が充実し、職種によっては、出勤しなくとも業務を行うことが可能になったからだ。 自宅で仕事ができれば、その日の体調に応じて横になることも可能で、がん治療を続けながら働くには有利な状況だ。 では、復職に際して短時間勤務やリモートワークが望ましい、出社する際に車いすが必要になる、人工肛門でオストメイト用のトイレが必要になるなど、会社に何らかの配慮がいる場合は、どうすればいいか。
がんとお金・仕事に関する患者への情報提供に取り組むNPO法人「がんと暮らしを考える会」の副理事長で、特定社会保険労務士の近藤明美さんは、「就業上の配慮が必要なケースでは、望ましい職場での配慮に関して医師に意見書を書いてもらって会社側と話し合うようにアドバイスしています」と話す。 治療と仕事の両立については、厚生労働省が『事業場における治療と仕事の両立支援のためガイドライン』を作成しており、働く人の個別性に配慮して支援するように求めている。
「がんと働く応援団」の共同代表理事で、乳がんサバイバーの野北まどかさんはこう語る。 「体の一部を切除したなど、治療によって変わった自分の体の『慣らし運転』が必要ですが、それは『月次』や『四半期』といった職場のタイムラインとはフィットしないもの。その人の持つ能力を適用させるまでに時間が必要だと、本人も周囲も捉えられるようになると、働きやすくなると思います」 ■“災害”と捉え、迷わないよう備える 多くの人はある日突然、がんと診断される。そして、ショックのあまり精神的に追い詰められ、「治療」「生存率」などをただひたすら検索して……ということは十分にありえる。
そんなときに、冷静に治療費や治療で失われる収入のことなどを考えるのは、どだい無理な話だ。 「がんと暮らしを考える会」の理事長の賢見卓也さんは、「病気のときに、経済的な支援制度を探したり、手続きをしたりすることは、酷ともいえます。だからこそ、患者さんと制度の間を埋めるような存在が必要になってくる」と話す。 「がんは突然訪れる災害のようなもの。だからこそ、正しく知り、備えることが大事」と、前出の吉田さんは言う。「がんと診断されてショックで頭がまわらない、そういうときこそ、正しい情報に迷わずアクセスできる、“災害マニュアル”のようなものを用意しておくことが大事だと思っています」。
※がん治療に伴うお金の問題を取材した「がんとお金」を3日間にわたってお届けします。今回は3回目です。 1回目:「医療費120万円」がん患う母が嘆く“負担の重さ” 2回目:高額化するがん治療「高額療養費」でいくら戻る?
佐賀 健 :メディカルライター