「アクシズ/ネオ・ジオン」はなぜ地球圏に侵攻したのか ハマーンとその周囲の思惑は
どこでハマーンは「勝てる」と踏んだのか
アクシズは0081年に討伐を受けたとはいえ、『機動戦士ガンダム0083』では中立を認められており、かつ本拠地は移動可能でもあります。 実際、アクシズの指導者マハラジャは、アクシズに居住施設「モウサ」を建設し、永住を視野に入れていたところを、ハマーンに代替わりして方針転換したのです。 摂政となったハマーンは、マンガ『機動戦士ガンダム C.D.A. 若き彗星の肖像』(著:北爪宏幸/KADOKAWA)のでなかで「将来地球圏への帰還を果たすと共に、地球連邦に対して過去の雪辱を遂げ、ザビ家再興とジオン公国独立を必ず勝ち取る」と宣言しています。これはとてつもない発言です。小惑星基地でしかないアクシズの国力は、連邦の30分の1どころではありません。 アクシズは大きく見積もっても数十km程度の大きさで、その居住区は3万人を収容できる規模です。逃亡艦隊の将兵とその家族3万人はすべてを収容しきれず、一部は2年間も艦艇で生活させています。要塞と艦隊を合計しても人口6万人、埼玉県秩父市がアメリカと戦うようなものです。 食料や工業プラントはあるにせよ、アクシズに資金力があるとは思えず、有能な軍人であるシャアも、0084年にアクシズを離れます。ジオン再興どころか、現状維持ですら困難な状況にも思えてきます。 そのようなアクシズを支える資金源は、恐らくは木星船団でしょう。サイド3やアナハイムエレクトロニクスなど、親ジオン系の勢力に木星のヘリウムを供給し、代価として物資や技術、情報を得ていたということです。 当時、連邦のスペースノイド弾圧部隊「ティターンズ」が巨大化しつつありました。アナハイムにとってこれはデメリットしかなく、反地球連邦組織「エゥーゴ」を事実上、組織して、連邦との対決も視野に入れていた時期です。 アクシズは、国力はともかく有力な軍事力を保有し、アナハイムが入手したいジオン系技術も持っていますから、提携先として魅力があり、秘密裏に支援していたに違いありません(実際、アナハイムはネオ・ジオンの主要モビルスーツ設計図を提供され、勝利後は生産する契約もしています)。一年戦争後に成立したジオン共和国も加わっていた可能性が高いです。 こうしたアクシズの支援者は、ハマーンに物資と情報を提供した上で「エゥーゴとティターンズの対立で連邦が内戦状態であり、この期に立ち上がらなければジオン再興はあり得ない」と、焚きつけたのでしょう。 ハマーンとシャアの個人的な感情のもつれもあり、何度か対立はしたものの、アクシズとエゥーゴの同盟的な提携は支援者にとって既定路線であり、だからこそアナハイム幹部がハマーンとの交渉に同席していたということです。 国力を考えれば、強いはずがないアクシズ/ネオ・ジオンでありながら、ハマーンは『ZZ』で地球連邦を事実上、降伏させ、サイド3の独立を勝ち取り、有言実行していますから、とてつもない実力を持つ指導者といえます。指図されたがらないシャアが逃げるのも、無理はないかもしれません。
安藤昌季