歌舞伎で峰不二子を表現、唯一無二の女形は一門の匂いを継ぐ 歌舞伎俳優・市川笑也さん
「ふ~じこちゃん」。歌舞伎俳優、片岡愛之助さんふんするルパン三世のおなじみのせりふで呼びかけられる、峰不二子。妖艶でスタイル抜群、ルパン三世が追いかけるのも無理はない。歌舞伎界で今、澤瀉(おもだか)屋一門の女形、市川笑也さんをおいて不二子ちゃんを演じられる俳優はいないだろう。歌舞伎とは無縁の一般家庭からこの世界に飛び込み、透明感のある美貌と精進で数多くのヒロインを演じてきた。年齢も性も超越した女形の魅力を知りたくて、笑也さんを訪ねた。 【写真】ありし日の師、二代目市川猿翁さんと市川笑也さん ■役作りに悩んだ峰不二子 歌舞伎俳優は60歳になっても70歳になっても、初々しい娘役も演じれば水も滴る二枚目も演じるものだ。分かってはいても、この人の若さ、みずみずしさは驚異的だ。昨年12月、東京・新橋演舞場で上演された新作歌舞伎「流白浪燦星(ルパン三世)」。舞台でグラマラスで色っぽい不二子を演じている笑也さんの姿に、客席の「ルパン三世」ファンも大喜びだった。 「“若さ”の秘密? イコール“バカさ”なのかもしれないけど」。いたずらっぽい笑みを浮かべながら、いきなりだじゃれでかわされた。 素顔も色白のすっきりした端正な容貌。 「自分が年なんだとか考えない方がいいんじゃないでしょうか。もちろんフィジカル面では、今までやれていたことができなくなってきたり、ということはありますけれども、それも受け入れるしかないですね。ただ、強いて秘訣というなら、若い人たちからいろんなことを吸収することは心掛けています」 新作歌舞伎で不二子を演じるに当たっては、ルパン三世の物語を万事、和物でやると聞いて、役作りに悩んだという。 「古典の歌舞伎を好きな方もいらっしゃれば、もともとのアニメのファンの方もいらっしゃる。両方のお客さまにどうしたら納得していただけるか、いろいろ考えました」 ヒントになったのが「YouTube」だった。さまざまなユーチューバーが化粧法を披露しているのを見て、「これだ」とひらめいた。 「片っ端から見て研究しました。今までの歌舞伎の女形の化粧とは違う、かといって現代のお化粧とも違う。歌舞伎の女形のおしろいベースだけど、不二子ちゃんに寄せていかなければならない。自宅でも随分、お化粧の練習をしていましたね」