再建中浸水「負けられん」 奥能登豪雨 5日で2週間 72歳歯科医踏ん張る
●町野・廣江さん 引退よぎるも「患者さんのため」 奥能登を襲った豪雨は5日で発生から2週間。大きな被害が出た輪島市に、2度の被災を乗り越えて診療再開を目指す歯科医がいる。町野町にある広江歯科の院長、廣江雄幸さん(72)だ。元日の地震で医院が半壊し、一時は引退を考えたものの、患者の声に奮起して再出発を決意。別の場所で医院を再建し、診療を始めるめどがたった矢先に、完成間近の建物が浸水した。それでも「患者さんのため、ここまで来たら負けられん」と廣江さん。不屈の意志で苦境を乗り越える。 【写真】21日の豪雨で濁流にのまれた新築中の建物(写真右奥) 廣江さんは能登半島地震で自宅が全壊し、200メートルほど離れた医院は大規模半壊と判定された。仕事も住まいもなくして失意のどん底に突き落とされ、歯科医をやめることも考えた。 そんな時、背中を押してくれたのが地元の患者だった。「先生いつ診てくれるんや」「やめんといて」。1日に3件、同じような電話がかかってきた。「ありがたいですよね」。廣江さんは3月、住めなくなった自宅を解体し、跡地に医院を新築しようと決めた。 7月に自宅の公費解体が終わり、8月22日、医院の新築工事が始まった。10月中の完成に向けて順調に工事が進んでいたが、9月21日、奥能登を襲った豪雨で暗転した。近くを流れる鈴屋川が氾濫し、建築途中の医院が濁流にのまれた。 水が引いた後、現場を訪れると、約2メートルの高さまで泥水につかった跡があった。内部をのぞくと、十数センチの泥がたまっていた。11月の診療再開は絶望的となった。 廣江さんによると、浸水した床をはがして泥を掃き出す作業が必要になる。しかし、廣江さんは「あと何年仕事できるか分からないし、自分には仕事しかない。弱音を吐きたくなるけど待っていてくれる患者さんのためにも早く診療を再開したい」と言い切る。 ●同業医師たたえる「ここまでできない」 豪雨の後、廣江さんの元には石川県外からボランティアが駆け付け、泥の撤去を手伝っている。4日に作業を行った長野市の歯科医、原山周一郎さん(69)は「患者さんのためとはいえ、ここまではできない。僕だったら再建を諦めますよ」と話し、廣江さんの熱意をたたえた。 廣江さんは「ボランティアさんがいなかったら進めることはできない。皆さんに支えられ、元気をいただいている」と感謝した。