巧妙な『地面師詐欺』も”ある書類”を読めば一発で見抜ける!…プロの司法書士でさえ見落としがちな”ある書類”とは
いつまでも来ない入金連絡
取引経過をさらに細かく追えば、第一段階として町田支店で津波たちの5億円が引き出されたのが、27日午後1時から2時までの1時間足らずのことだ。 あとの作業は東亜やプリエに任せる以外にない。言ってみれば、津波側の作業は町田支店でほぼ終了したことになる。津波側の残る作業は、学芸大学駅前支店に派遣している津波側の司法書士事務所の職員が、プリエから持ち主の西方へ5億円が入金された事実を見届けること。それが確認できれば、あとは西方から登記書類を預かって法務局へ向かうだけだ。 事実、そのために津波側は遠いM銀行の学芸大学駅前支店にまで自社の社員や司法書士事務所の職員を派遣し、法務局の世田谷出張所で所有権の移転登記をおこなうつもりでいた。 ところが、学芸大学駅前支店には待てど暮らせど、5億円の送金がない。津波は、そのあたりの出来事も社員や司法書士からのちに詳しく聞きとっている。津波が苦渋の表情を浮かべながら、記憶の扉をあけた。 「少なくとも銀行の閉まる午後3時までには、学芸大学駅前支店でプリエから西方さんの口座に入金しなければならないのですが、その時間を過ぎてしまいそうでした。それで、向こうに行ってもらった私どもの司法書士事務所の職員から、『どうなってるんですか』と電話連絡が司法書士の先生に入ってきました。Y銀行の町田支店ではとっくに作業を完了している。だから、あとは登記するだけだと思い、うちの司法書士の先生たちが世田谷の法務局で落ち合う手はずになっていて、すでにY銀行から向かっていたときです」 そうこうしているうちに午後3時を過ぎ、銀行の窓口が閉じてしまった。それでも、M銀行学芸大学駅前支店に派遣している津波側の司法書士事務職員からは入金の連絡がない。
「普通ではない」状況への焦り
「それで、3時40分ごろになって、すでに世田谷の法務局で待機していた司法書士の先生から僕に電話がありました。銀行の窓口が閉まり、東亜の松田に連絡したみたいで、先生も焦っていたと思います。先生は私に『どうも松田が間違えて売買代金を別のところへ振り込んじゃったらしい。明日には金を戻させると言っているので、登記は明日でいいですか』というのです」 むろんそんな呑気なことでは困る。津波はつい司法書士に対する電話の声が大きくなってしまった。 「先生、ちょっと待ってください。それが嘘だったらどうなるんですか」 つい詰問調で司法書士に聞いた。急いで学芸大学駅前支店の司法書士事務職員たちにも電話をかけた。 「プリエの茅島(熊谷の偽名)は、どうしているんだ」 そう尋ねた津波に対し、職員の答えはあまりに頼りないものだった。津波が言葉を絞り出すように言った。 「茅島は『うちは20億円くらい払おうと思えば払えるけど、商売だから、そっちからお金が来ないことにはね。それまでは払えません』ととぼけているというのです」 もはや銀行のシャッターは閉まっている。 「こっちの人間は4時を過ぎても、ずっと銀行の外で待っていたそうです。そのうち茅島が、『近くで(別の)取引があるので、それを確認してきます』と言い残したっきり、どこかへ行ってしまった。それから銀行の支店に戻って来なかったというのです。明らかに普通じゃないし、もう放っておけませんでした」 津波側の司法書士は、この間、東亜社の松田と電話でやり取りをしていたようだが、埒が明かない。不安を覚えた津波は迅速に動いた。
森 功(ジャーナリスト)
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