さて、この写真のクルマはいったい何でしょう? ヤフオク7万円で買ったシトロエン、修理の間は代車生活【シトロエン・エグザンティア(1996年型)長期リポート#34】
謎のちょっと古いクルマ はたしてその正体は?
ヤフー・オークションで手に入れた7万円のシトロエン・エグザンティアを、10カ月と200万円かけて修復したエンジン編集部ウエダの自腹散財リポート。天国と地獄が代わる代わるやってくる本篇をちょっとお休みし、ウェブ・プロデューサーのひとことから、エグザンティアの修理中に乗っていた、とある代車についてリポートする。 【写真12枚】ヤフオク7万円のシトロエン・エグザンティアの代車でやってきた謎のクルマ、ランチア・ゼータの詳しい写真を見る! ◆ゼータ(Z)を知っているか? 「これ、なんていうクルマですか?」 ENGINE WEBで長期リポート中のシトロエン・エグザンティアが修理で入庫している2週間ほどの間に、こう質問されたのは実は1度や2度ではない。駐車場の管理人も、知り合いの営業マンも、某国産スポーティカーの潜むお隣のパーキングの借主も、誰もその存在を知らなかった。『ENGINE』2024年5月号の巻頭特集「ちょっと古いクルマ探検隊。」の取材で、ジャーナリストのちょっと古い愛車5台を集めた時も、エンジン編集部員の愛車3台が集まった時も、実はいちばん注目されたのはこのエグザンティアの代車だった。 その名を、ランチア・ゼータ(Z)という。まるでレースのサポート・カーのようにリア・ハッチにはステッカーがたくさん貼られているものの、濃いブルーのボディは街中に自然と溶け込み、まったく目立つことはない。ぱっと見には日本の路上のどこにでいそうな、両側スライド・ドアの古めのミニバンである。 「上田くん、あれ、いつまで乗っているの? せっかくだからリポートしてよ。なかなか見られない“ちょっと古いクルマ”でしょ? いつものエグザンティアの番外篇として2回くらいでさ」 そういうのはENGINE WEBのウェブ・プロデューサーであり、初代フィアット・パンダと2代目ムルティプラに乗る編集部のシオザワさん。この間の撮影の合間にちょっとゼータの横に乗せて、あたりをひと回りした時の印象が良かったみたいだ。 「ゼータ、いいですよねぇ。写真を撮っても大丈夫ですか?」 そういうのはやはりその時横に乗った、本誌アルバイトながら初代ポルシェ・ケイマンとユーノス・ロードスターに乗るオオテくん。確かに、これはちょっとビックリするほど凝ったクルマなのである。 特に凝っているのは中身だ。室内を見れば一目瞭然。ランチアらしく上品なグリーンのアルカンタラのシートが6脚も並んでいる。 ただし中央列の真ん中にだけ、グレーの色違いのシートが付いていた。 ◆カングーくらいの存在感 インストゥルメント・パネルの中央からにゅっと飛び出ているのはシフトノブ。ミニバンではあまり見ることはないが、このゼータの変速機は5段のマニュアル。ステアリング・ホイールはリモコン・スイッチがなく、中央のエアバッグ・ユニットにランチアのロゴが入っているが、シトロエン・エグザンティアとまったく同じものだ。濃いグリーンのシートに合わせて、フロア・カーペットも薄いグリーンにしているのがすごくお洒落である。 ボディ・サイドには「Z 2.0t」と、小さな小さなエンブレムが付いている。これをめざとく見つけて「これってターボなの? 初めて見たよ」とおっしゃったのはモータージャーナリストの清水草一さん。そう、イベント会場などを除き、僕もこれ以外のゼータが、日本の道を走っているところを見たことがない。 屋根の上のウイングのように見えるものは、前後に分割され、スライドし、ルーフ・キャリアになるみたいだ。ただしこれはゼータ用ではなく、後継モデルのフェドラ用を加工して取り付けたものらしい。前席と2列目席の頭上には、それぞれ大きなガラス・ルーフが付いている。 2.0tという記号が示す通り、短いボンネットの中にはエグザンティア・ターボCTアクティバと同じ、2リットルSOHC 8バルブの直列4気筒ターボ・ユニットが横置きで搭載されている。最高出力と最大トルクは147ps/5300rpmと24kgm/2500rpm。駆動するのは前輪のみで、4輪駆動の設定はない。 車体サイズは当時のイタリア版のカタログによれば、全長4470mm、全幅1832mm、全高1714mm。現行のルノー・カングーよりも20mm短く、12mm広く、96mm低いのだが、駐車場で隣に並べてみると存在感はほぼ同じくらいである。とはいえ座席はカングーは前後2列、ゼータは前中後の3列だから、いかにクルマが大きくなっているかよく分かる。ただし車両重量は1690kgとなかなか重めだ。 ゼータはもともと、1990年代初頭にフィアット・グループとPSAが共同で開発・生産した6~8人乗りのミニバンのバリエーションの1つである。開発の主導はPSA側にあったようで、プジョー版が806、シトロエン版がエヴァジオン、フィアット版がウリッセという名でそれぞれ販売された。車体の基本部分は共通だが、灯火類や前後の造形は異なっていて、その中の最上級版がランチア・ゼータというわけだ。なお当時すでにグループ内に属していたアルファ・ロメオ版は存在しない。 ゼータをふくめ、このフィアットとPSAの共作はすべて日本に正規導入はされなかった。これまで日本でウリッセとエヴァジオンを見たことはないが、わずかな数の806と、10数台程度のゼータが並行輸入の形で上陸したのは確認している。ゼータの多くはこのターボ・エンジンとブルーの外装と緑のアルカンタラ内装の組み合わせだが、レザー内装や2リットルDOHC 16バルブ自然吸気4気筒エンジンと4段ATを組み合わせたモデルもやって来ているらしい。 ◆ハズレの代車かと思いきや 代車だから仕方がないのだがドリンク・ホルダーが何個も付けられ、レーダーやシガーソケットなどの配線が室内のあちこちに張り巡らされているのは正直好みじゃないし、走行距離も積算計上ですでに22万km以上、実際にはメーター・ユニットが交換済みらしく25万kmを越えているらしい。エグザンティアの主治医であるカークラフトの代車なので、そうとう入念なメンテナンスを受けているはずだけど、そこはしょせん大きなミニバンだろう、と思っていた。 カークラフトとの付き合いは長いが、この代車のゼータに乗ることはこれまでなく、今回あてがわれた時は、正直ハズレだと思った。僕の生活の中でここまで多くの人を乗せる用途は99%ない。 どうせ同じMTなら、こんな大柄なクルマより、以前代車として時々乗せてもらった、初代ランチア・イプシロンが良かった。あっちは1.2リットルDOHC 16バルブ・エンジン搭載車で、身軽でキビキビしていてすごく好みだったからである。 ところが、この僕のゼータに対する間違った考えは、運転席に座り、走り出してすぐに覆されることになった。うわっ! 何コレ? こんなに濃厚な運転感覚のミニバンがあったのか!! 次回の後篇では、ゼータという知る人ぞ知る名車について、イタリア車的でありフランス車的でもある操縦性と、華美な表層に隠された、実用車としてとても正しい造り込みの詳細をご報告する。 文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=神村 聖(集合写真)/上田純一郎 撮影協力=カークラフト ■CITROEN XANTIA V-SX シトロエン・エグザンティアV-SX 購入価格 7万円(板金を含む2023年3月時点までの支払い総額は234万6996円) 導入時期 2021年6月 走行距離 17万4088km(購入時15万8970km) (ENGINE WEBオリジナル)
ENGINE編集部
【関連記事】
- ヤフオク7万円で買ったシトロエン、細々したトラブルと平和だった(わずか)半年間【シトロエン・エグザンティア(1996年型)長期リポート#33】
- ヘッドライトの曇りが解消しました! 【エンジン編集部長期リポート 79号車 ポルシェ911カレラ4S(996型)#67】
- 旧車、ちょっと古いクルマはフランスでも大人気! 歴史あるヒストリック・カーの祭典「レトロモビル」が今年も開催された!!
- 22年前に建てられた名建築を購入してリノベーション!「ピカピカの新築よりも、歳月を経た味わいのある建物が好き」という施主の希望に大改修で応えた建築家の素敵なアイディアとは?
- 「素手素足で岸壁にアタックするような硬派で剥き出しの手ごたえは、ほかの車では得られない」by 高平高輝 これがケータハム・セブン340Rに乗った自動車評論家のホンネだ!!