東海大黄金世代・館澤亨次が同期の現役引退を前に「改めて陸上界は甘くない」
【休みがないのが苦じゃなくなった】 技術面と体力面の両輪でのレベルアップが必須だと理解したが、どうやって上げていけばいいのか、思考錯誤を繰り返すも明確な答えがなかなか見つからなかった。自信を持ってレベルアップできている実感がなかったのだ。転機になったのは、海外だった。国内では刺激となり得られるものがないかもしれないと思い、オーストラリアに行き長期合宿を行なった。 「オーストラリアに行って感じたことは、トレーニングでまだまだ自分を追い込めるし、進化できる要素があるんじゃないかということでした。まず、速く走るためにすべきことを100%やって、伸びるところまで伸びたあと、さらに1、2秒詰めるために必要なトレーニングをする。突き詰めていった先で、さらに突き詰めていく作業が必要だと思ったんです。僕はこれと決めたことに向けて突っ走るのが合っているんですけど、できることは何かを毎日、考えてやるようになりました。そうすることで自分に何が合って、何をしなきゃいけないのか、だいぶクリアになってきたんです」 トレーニングメニューや競技に対する意識など、いろんなことを吸収する場になったが、オーストラリア人選手のメンタルや陸上への距離感も参考になった。 「オーストラリアの1500mのレベルはえげつなく高いです。僕のタイムじゃ10番内にも入れないんじゃないかと思います。僕ら日本人は3分35秒を切ることを目標にしていますが、彼らは五輪で優勝をすることを考えているんですよ。それを現実的な目標として追い続けているメンタルの強さがすごいなって思いますね。あと、みんな、陸上が好きで、その距離感がいいんです。ポイント練習もジョグも緊張感を持ちながらやるのが日本のよさでもあると思うんですけど、彼らはジョグはおしゃべりしながら走って、すごく楽しんでいる。でも、ポイント練習になると、緊張感が生まれ、スッと練習に入っていく。その切り替えがうまいなぁって思いました。日本人って、僕も含めてですが、苦しめば苦しむほど強くなれると思いがちじゃないですか。ポイントで追い込む時、走り込む時のつらさは必要だけど、そのなかでも楽しむ感覚が大事だなと思いましたね」 そういう意識の変化の影響か、以前は休日を楽しみにしていたが、1日休むということがほとんどなくなった。「休みがないのが苦じゃなくなったんです」と館澤は言うが、現地でも日本でも毎日、気持ちよく1時間程度、ジョグをしている。 「楽しく走ることで精神的な疲労がたまらなくなりました」 伸び伸びした環境と強い選手にもまれ、館澤の競技力は伸びていき、今年2月には3分37秒13をマークし、自己ベストを更新した。パリ五輪の標準参加記録までは、まだ4秒あるが、最後まで諦めずに狙うという。 「初めて38秒台を出した時は、運がよかったみたいな感じで、もう1回出せと言われてもできないイメージだったんです。でも、37秒台を出した時は、まだいける、33秒に挑戦していけば超えられるんじゃないかというイメージがあったんです。結果的に、33秒を切るつもりでレースに臨んで結果を残していけばポイントが貯まっていき、ランキングで道が開けるかもしれないと考えています。パリ五輪が決まるまでのレースは、全部3分35秒を切るためにどうしたらいいのか、明確なイメージを持って挑戦していきたいと思います」