『フェルマーの料理』母の悔しさを背負う蘭菜の挑戦 海によるレストランK買収の真相
今日もまた、レストランKの忙しない一日が幕を開ける……と書きたいところなのだが、まだ第4話の“あの問題”が尾を引いている。忘れるはずもない、前回レストランKで勃発した海(志尊淳)と蘭菜(小芝風花)のバトルだ。朝倉海という男のまた新しい一面があらわになったTBS金曜ドラマ『フェルマーの料理』第5話。蘭菜の料理人としての人生に、ひっそりと魔の手が迫る。 【写真】料理を食べる蘭菜(小芝風花)と岳(高橋文哉) 評論家・綿貫からの絶賛を受けた蘭菜は、心に秘めた切実な願いを海にぶつける。「母の店を返して」という彼女の声は、痛切な感情を帯びていた。しかし、海の反応は氷のように冷たい。「決定的に欠けているものがある」「そんなんだから、いつまで経っても“見えない”んだよ」という彼の言葉は、刃のように蘭菜の心を裂く。「いらないやつは切る、それだけだ」という海の断言に、岳(高橋文哉)も動揺を隠せない。 一方、蘭菜の前には予期せぬ人物が現れる。それは、岳のかつての宿敵であるヴェルス学園の理事長・西門(及川光博)。彼は蘭菜に一つの提案を持ちかけ、その影で淡島(高橋光臣)と渋谷(仲村トオル)にもレストランKに関わる異なる提案を進めていた。蘭菜と西門、交わることのない2つの点が、「Kを買収する」という西門の野望によって、運命的な線で結ばれていくのだった。 今回のエピソードで鍵を握っていたのは、蘭菜の母・桜(釈由美子)の存在である。幼い頃の蘭菜と桜のツーショットが飾られた机からは、母娘の強い絆が感じられた。「私が絶対にお母さんの店を取り返すから」と静かに固い決意を表明する蘭菜。かつて情熱を傾けていた料理の道を離れ、今はスーパーの惣菜に頼る桜の姿に、なんとも言えない切なさを感じてしまう。 そんな桜のもとを訪れた人物がもう1人。蘭菜の話に疑問を抱き、真実を探るためにやってきた岳だ。岳は熱く「やっぱり、お母さんだと思うんだ。今の蘭菜さんを救えるのは」と訴える。直後のカットで映し出された、蘭菜をそそのかす西門の「一緒に、お母さんの仇をとりましょう」という偽の“救いの言葉”との対比が印象深い。この2つの言葉は、まるで蘭菜と桜、そして岳の運命を乗せた天秤のようでもあった。 「仔羊は私のスペシャリテなの」と語る母の料理を前に、蘭菜は涙を流しながらそれを口にする。一般的な“おふくろの味”とは少し異なるかもしれないが、その味には蘭菜にとって特別な意味があった。母親が作った料理を食べて育った郷愁を感じさせる、蘭菜の心に刻まれた特別な料理。それは、彼女にとって唯一無二の、温かな思い出の味だったのかもしれない。母の手がかけられた仔羊の料理は、蘭菜の心に深く根ざした家庭の味であり、きっと単なる食事以上の母からの愛情の証だったのだ。 「私が料理から離れたのは朝倉海のせいじゃないの」と、過去を懐かしむように桜は語る。彼女と蘭菜の人生を根底から揺さぶった無茶な立退きの背後には、西門の影があった。この男はどこまで巧妙で小狡い手を使うのだろうか。一方で、海の「たとえ憎まれても彼女を成長させる。だからその時まで、母親の店を奪って憎まれ役でいさせてください」という言葉には、胸を打つようなかっこよさがあった。蘭菜の成長を促すために自ら憎まれ役を買って出る決意の根底にある、“本心”がわからない点だけが不安だが……。 今回の岳のレシピは、フレンチトーストの起源を活かした究極の一品。海の提案により、西門に究極の料理を提供することになった岳と蘭菜。数学的帰納法から“ドミノ倒し”のように連鎖する美味しさを生み出す仔羊の肉料理は、毎回のことながら視聴者の食欲をそそる。 第5話では、“仲間”の存在が鮮やかに描かれる展開も。「女であることで料理人として認めてもらえない悔しさは、もう味わいたくない」と、厨房から出ようとしない蘭菜を、レストランKの皆が励ます。岳の「時代が変われば物の見方も変わる」という言葉は、母の悔しさを背負う蘭菜にとって、とても重い意味を持つ。今回の蘭菜の挑戦は、料理の枠を超えて、何か大きなものを変えようとしているようにも思えた。 一方で、蘭菜の問題が解決したかのように見えた矢先、海は岳に向かって「時間がないんだよ。もう二度と無駄なことに時間を使うな」と厳しく叱責する。今回、珍しく涙を流すシーンを見せたりと、彼が内に秘める深い闇を感じさせた海。その闇が、岳をも包み込んでしまう様子は見たくない。海が放つ強さと脆さの危うい輝きは、岳の瞳にどのように映っているのだろうか。
すなくじら