『虎に翼』滝藤賢一の芝居の緩急が生む多岐川の人物像 “別人”で再登場したヒャンちゃんも
香淑(ハ・ヨンス)とまさかの再会を果たした寅子(伊藤沙莉)だが……
寅子は、多岐川と東京少年審判所・所長の壇(ドンペイ)、家庭裁判所・所長の浦野(野添義弘)との話し合いに参加するも、お酒を飲み交わし、高らかに笑い合う彼らの姿を見て「話し合いって飲み会じゃないか!」と呆れていた。多岐川の「佐田くん、ここでは仕事の話はやぼだよ」という言葉もまた、寅子を失望させたことだろう。だが、多岐川は、“分かり合えない時は諦める”という結論に至らぬよう努めているのではないか。 思えば多岐川は、物語冒頭で怒声をあげたが、その言葉は寅子を罵倒するものではなかった。「そんなモヤモヤして、いい仕事ができるわけがないだろう」という叱責に、多岐川の仕事に対する姿勢と、共に働く部下を思いやる気持ちがうかがえる。壇、浦野との飲み会での明るい雰囲気も、反目し合う立場にある者同士がお互いのことを理解できるような場を設けることで、壇と浦野に信頼関係を築かせることに努めているような気がしてならない。ひいては、家庭裁判所の存在を社会の平和、未来の平和につなげるために。 周囲が語る多岐川の熱心さを寅子が一向に掴めない中、第53話は突然訪れた“ヒャンちゃん”との再会で幕を閉じた。酔いつぶれた汐見を家に届けた寅子は、汐見の妻・香子こと崔香淑(ハ・ヨンス)と再会する。久しぶりの再会にもかかわらず、香淑は沈んだ表情をしていた。家庭裁判所設立の行方、いまだ捉えどころのない多岐川の人物像、香淑はなぜ浮かない顔をしていたのか、気になることが山ほどある。
片山香帆