緊縮派プロパガンダとの闘いが始まった 国民民主の負担減政策に「税収減」「高所得者優遇」目立つ批判…円安へ説得力乏しい解説も
【森永康平の経済闘論】 10月27日に衆院選の投開票が行われ、自民党は大幅に議席を失い、公明党を合わせた与党で過半数に届かなかった。 9日に衆院が解散されると、多くの専門家は「選挙は買い」と言っていた。解散から投開票までは新たな政策期待で株価が上昇しやすいという過去の経験則があるからだ。しかし、実際には日経平均株価は9日の終値から投開票前までに1300円以上も値を下げた。おそらく、今回の衆院選では与党が過半数割れをして政局が不安定になると予想したからだろう。 そして、投開票が近くなると、多くの専門家は「自公が過半数割れなら株式市場は暴落する」と言っていたが、蓋を開けてみれば投開票後は3日続伸となり、解散から投開票までの下落分を一気に回復してしまった。これは「自公が過半数を維持」または「立憲民主党が単独で過半数を獲得」とはならなかったため、負担増政策の実現可能性が目先はなくなったことが好感されたからだと考える。 むしろ、国民民主党がキャスチングボートを握ることによって、緩和的な金融政策や積極財政への期待感が膨らんだのだろう。 早速、国民民主党の動きに対して賛否両論が巻き起こっている。今回の衆院選で国民民主党は基礎控除等の合計を103万円から178万円に引き上げると公約に掲げていたが、いくつかのメディアやSNS上のコメントでは、この政策が実現すると国と地方の合計で年間7・6兆円も税収が減ることや、高所得者ほど減税額が大きい優遇策だ、と批判が目立つ。 前者については表現を変えれば本来は徴収されるはずだった7・6兆円もの金額が民間側に残るということだし、後者についても高所得者の方が納税額が多いのだから、金額ベースでみれば減税額が大きくなるのは当然だろう。 それ以外にも衆院選以降、為替相場が円安方向に動いたことについても、バラマキ型のポピュリズム政策によって日本の財政状態が悪化することを懸念した円売りが出ているという解説も見かけたが、政局が不安定ななかで日銀が追加利上げをすることはないという観測から円が売られたという方が説得力はあるだろう。 事実、10月末の金融政策決定会合では金融政策の据え置きが決定された。緊縮派のプロパガンダには注意しなければならない。
■森永康平(もりなが こうへい) 経済アナリスト。1985年生まれ、運用会社や証券会社で日本の中小型株のアナリストや新興国市場のストラテジストを担当。金融教育ベンチャーのマネネを創業し、CEOを務める。アマチュアで格闘技の試合にも出場している。著書に父、森永卓郎氏との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など。