堀井雄二氏と橋野桂氏の対談記事の先行版を大公開。『メタファー:リファンタジオ アトラスブランド35thアニバーサリーエディション』付属冊子の特別対談を先行してお見せします
アトラスより2024年10月11日に発売を予定している『メタファー:リファンタジオ』。アトラスが放つ、『ペルソナ』でも『真・女神転生』でもない、真なる幻想世界への回帰をテーマに開発された新作ファンタジーRPGだ。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 ディレクション・プロデュースを橋野桂氏が務め、キャラクターデザインを副島成記氏が担当。さらには、コンポーザーを目黒将司氏が務めており、『ペルソナ3』、『ペルソナ4』、『ペルソナ5』でおなじみのメンバーが制作陣として集結している。 本作は通常版に加えて、アトラスブランド35周年を記念した特別パッケージ『メタファー:リファンタジオ アトラスブランド35thアニバーサリーエディション』も発売となる。このアニバーサリーエディションにはアトラスブランド35周年を記念した冊子も付属しており、これまでに発売されたアトラスタイトル年表やエポックメイキングタイトルの解説、各界からのお祝いコメント・お祝いイラストなどが掲載されており、非常に豪華な内容となっている。 さらには、『ドラゴンクエスト』の生みの親である堀井雄二氏と『ペルソナ』シリーズ、『メタファー:リファンタジオ』のディレクターを務める橋野桂氏の対談も掲載。数々の名作を手がけてきたおふたりが「RPGの魅力」をテーマにクロストークを繰り広げている。 本冊子の制作は電ファミニコゲーマーが手がけているため、本稿ではアトラスの許可を得て、特別に対談記事の序盤部分をお伝えしていく。 ■『ドラクエ』は全部の話を「セリフ」で進めた ──物語を体験できるRPGは、ゲームジャンルの中でも強烈な印象をプレイヤーに残すものですが、そもそも堀井さんが「RPGにいちばん興味を惹かれた部分」というのはどういったところだったのでしょうか? 堀井雄二氏(以下、堀井): 僕はもともと漫画を描いていて、ずっと漫画家になりたかったんですけど……その途中でコンピューターに出会ったんです。人とやり取りのできるコンピューターが楽しくて「このインタラクティブをベースにして、物語を書いたら楽しいだろうな」と思ったんですね。そんな中でアドベンチャーゲームやRPGに出会い、「これはできるな」って気がして。そこで、最初に『ポートピア連続殺人事件』を作ったんです。本格的にゲーム作りを始めたのはそこからですね。 橋野桂氏(以下、桂): 最初に「殺人事件のアドベンチャーゲームを作ろう」と思ったのは、堀井さんの中でどういった狙いがあったんでしょうか? 堀井: そもそも、 僕はドラマが好きだったんです。当時は『ミステリーハウス』とかいろいろあったんですけど……「単純に謎を解く」のではなく、「実際に事件が起きて、ドラマが動いていく」ということをゲームでやるのが楽しいかなって。そして「犯人を誰にすればいいか?」というオチの部分でも、『ポートピア連続殺人事件』ではいちばんの荒技を使いました(笑)。 ──(笑)。アドベンチャーゲームにドラマ性やキャラクター性を持ち込もうと思ったのは、なぜなのでしょうか? 堀井: やはり漫画家志望で、「お話が好きだった」というのはあると思っています。自然に「物語を書こう」となりましたし、「ボスとやり取りをする中で話が進んでいったら楽しいかな」と思ったんです。その思いつきが『ドラゴンクエスト』(以下、『ドラクエ』)にも繋がっています。だから、『ドラクエ』は全部の話を「セリフ」で進めたんですよね。 『ドラクエ』って基本は町の人のセリフだけで、地の文はほとんどありません。セリフの中で物語を作っていく。それが楽しかった。 橋野: 「漫画の主人公」は個性や意志を持っていますし、 個人の目的を持っています。一方、『ドラクエ』の主人公は、 勝手にしゃべることはありませんよね。「ゲームの主人公」を描くにあたり、作りづらさは感じなかったのですか? 堀井: 作りづらくはなかったです。シンボル的な主人公でも、さまざまな反応をプレイヤー自身が想像したり、主人公のキャラクターに感情移入して「こいつは自分だ」と動かしていたわけじゃないですか。だけど、ゲームのグラフィックが進化してリアルになってくると、突っ立っているだけの主人公はマヌケに見えてしまう(笑)。かといって大げさに反応させるとプレイヤーは「これは俺じゃない」と思ってしまう。ですから、『ドラクエ』のような主人公はゲームがリアルになるとツラくなってきます。これは今後の課題でもありますね。 橋野: ゲームグラフィックは進化し続けていますし、キャラクターの等身も上がってきていますよね。堀井さんは、「ハードの進化」をどう思われているのでしょうか。 堀井: シンプルに「すごいな」と思っています(笑)。さきほど『メタファー:リファンタジオ』(以下、『メタファー』)のゲーム画面を見させてもらいましたけど、 街がすごいなって。「こんな街を描けるようになったんだ」と思いましたし、あの街を歩けるというのはすばらしいことだなと思います。 ■ドラマは線、『ドラクエ』は面 橋野: 子どものころに初めて『ドラクエ』をプレイしたとき、それぞれの町で「冒険の楽しさ」をすごく感じたんですね。そのときに「これは旅が好きな方が作っているんだろうな」と思っていたのですが、以前堀井さんとお話させていただいた際に「旅には行かない」とおっしゃっていて(笑)。「では、何をソースに『ドラクエ』の町を作ったんだろう?」と疑問に思っていたのですが……。 堀井: 旅行自体は嫌いではないのですが、 じつは僕は旅に行っても、あまり感動しないんですよ。 逆に、ゲームの中ではすごく感動するんです。やっぱりドラマとか「物語」が好きなんですよね。 橋野: 『ドラクエ』は何気ない町の人のセリフも「そのシチュエーションでプレイヤーがどう思うのか」ということをすごく考えられていると思います。一貫して「相手が何かをしゃべったときに、どんな感情が湧くのか」を考えたうえで作られているように感じていて。ですから、堀井さんがさきほどから「お話が好き」とおっしゃられているのは意外でした。ドラマ性よりもゲーム性を意識して作られているのかと思っていましたから。 堀井: ドラマって「線」なんですよね。でも、『ドラクエ』は「面」で作っているんです。町を置いて、人を置いて、「面」でセリフをしゃべらせて、「面」でお話が進んでいく。だからイベントが起こると「面」ごとガラッと変えるために、町の人のセリフを変えたりします。 でも、 じつはお話を進める人のセリフより、「なんともない町の人のセリフ」のほうが書くときにすごく考えますね。お話を進める人ではない、進行役ではない村人のセリフを適当に書いてしまうと、その村の雰囲気だけではなく、物語にリアリティがなくなってしまうんですよ。 ■『メタファー』のテーマ、「不安」とは ──「村人のセリフ」ひとつで、ゲームの完成度は結構変わってくるものなのでしょうか。 堀井: それはありますね。ただ、ゲームの町がリアルになるにつれて、これも辛くなってきました。初期の『ドラクエ』の町は人口も20~30人くらいで、その全員が話したとしても、セリフを書く僕も、そのセリフを読むユーザーも、それほど大変な作業ではなかったんですね。 でも、リアルな町になると町の人も何十人といるわけですよ。これが全員話せてしまうと、それを読まされるユーザーもとても大変になってしまう。そんなわけで、さっき見せてもらった『メタファー』のように「話せる人と話せない人を分けてしまう」というのは、いいアイデアだと思います。 町の雰囲気を出しながらゲームとして成り立っている。 橋野: でも、NPCのセリフは逆にそれぐらいしかできなくて。 街の中に「ガヤガヤ」という擬音を入れ込んで、臨場感を加えながら誤魔化しています(笑)。 ──『ドラクエ』のお話が童話や神話っぽさがある一方で、 橋野さんが作られたタイトルには現代的な私小説っぽさを感じています。このテイストの違いをお聞きできればと思うのですが、 堀井さんはなぜ『ドラクエ』のお話をあのような雰囲気で描こうと思われたのでしょうか? 堀井: 「こんなお話を作る」というよりも「いかにユーザーの意表を突くか」とか、「こんなことが起きたら楽しいだろうな」ということを考えて作っていました。だから、「ゲームで伝えたいこと」とかあまり考えずに、 最初は「イベント」から考えていきました。ゲーム中、どんなことが起きたら楽しいだろう? というのが発想の出発点なんです。 たとえば「宿屋に泊まり、朝になったら誰もいない」とかね。 僕は、いたずらが好きなので、そういうイベントもいっぱい考えました。『ポートピア連続殺人事件』の犯人の仕掛けは、 まさにそうですね。 まず、 びっくりする犯人を考えて、そこからお話を作りました。 橋野: 僕は『ドラクエ』ほど細かく意表を突くような作りにはできていないのですが、話の中で積み上がっていったものを活かし、最後にプレイヤーの意表を突く重い選択を提示しています。そこで「え!? そう来るんだ?」と、揺れ動いてもらえるようには作っているつもりです。 堀井: 橋野さんはいつも、「テーマ」、「メッセージ性」を考えられているんですよね? 『メタファー』は「不安」がテーマだと聞きました。 橋野: 「不安」って多かれ少なかれみんな持ってるものじゃないですか。「やってみないとわからないから、不安を持っている」といったことが書かれている本もありますし。未経験だから不安を持つ。それに立ち向かうとつぎに進めるけど、やらない限りはそのまま。つまり、なにかに不安を感じたら、それは「つぎに進める」きっかけなんじゃないかなと思って。 「不安=つぎに進めるキッカケ」というテーマなら、 全世界の人にも理解してもらえる、 シンプルな話になると思ったんですよね。 堀井: そうですよね。人間は何がいちばん怖いかといえば、「不安」なんですよね。そのあとに起こることよりも「こうなるんじゃないか」という不安がいちばん怖い。でも実際にそういうことになったとしたら、意外と人間は何とかするんじゃないかと僕は思ってます。 橋野: 昭和のころですと、 上司から突然「これをやれ」と仕事を丸投げされて、「やらざるを得ない」状況に追い込まれるのを積み重ねてきて…… 結果として技術が身につくこともありました(笑)。だけどいまは、なかなかそういう経験はできないというか、「無茶ぶりはしちゃいけない」といった風潮はありますよね。「崖に落としてくれる人」が周りに少ない感じもして。 ──橋野さんの作品には、そういったテーマやメッセージ性が強く組み込まれていますよね。 率直に、橋野さんはなぜ作品にメッセージ性を込められるのでしょうか? 橋野: テーマを言語化しないとチーム制作がうまくいかない、というのはあります。プロットは自分で作っていますが、すべての台本を書くわけではありませんから、共有するためにテーマやメッセージ性を文言化するんです。……個人的には恥ずかしいんですけども(笑)。ただ、ゲームのテーマなんてプレイヤーそれぞれが好きなように感じてもらえればいいだけですし、メッセージ性を感じたくてゲームを買うわけじゃないですよね。だから、シンプルに楽しそうなゲームだと感じてもらいつつ、オマケで「自分にとってプラスになるような気づき」があるような塩梅がいいんだろうなと思っています。 ただ、今回のタイトルにある「メタファー」という言葉には「隠された比喩」という意味があります。 要するに、「もう最初から隠さずにタイトルで『メタファー』と言ってしまったほうが、すべてをさらけ出せるかなと。ダサカッコよくていいですし、「『メタファー』って自分で言うな」と突っ込んでほしくてつけたタイトルですね(笑)。 ……と、後ろ髪をひかれるが、お見せできるのはここまで。気になった方はぜひ『メタファー:リファンタジオ アトラスブランド35thアニバーサリーエディション』を購入してほしい。
電ファミニコゲーマー:
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