開幕投手の価値観はなぜ日米で違うのか
メジャーリーグに詳しい元中日などでプレーした評論家の与田剛氏は、「メジャーでも開幕投手は注目されるものですが、確かに日本とは価値観が違いますね。日本では引退してからでも『開幕を何度やった』が記録として語り継がれますがね。僕は日米の野球観の違いだと思っています。メジャーでは開幕の1試合よりも年間のローテーションをしっかりと守ること、次にイニング数、勝ち負け、貯金という結果が重要視されるという野球観があります。クオリティスタートという言葉があるように、勝ち負けは、あくまでも投打の兼ね合いでついてくるものと考えられていて、開幕投手も、あくまでも長いレギュラーシーズンのスタートという位置づけですよね。試合数が日本よりも多いということも影響しているのかもしれません。また開幕の1勝よりも、むしろポストシーズンの1勝の方が重要視されます。どのチームも、ポストシーズンへの進出をチームとして最大の目標としておいていますからね」と説明する。 確かに現在のメジャーでは、勝敗、そのものよりも、「6イニング以上を投げて自責点3以内」というクオリティスタート率が先発投手としての安定度の指針とされていて、開幕を務めたかどうかや勝敗そのものよりも評価される。メジャーには中4日登板や球数制限、ローテーション5人制度など、日本ではなかなか相容れない独特の野球文化がある。それらの野球文化の違いが、日米の開幕投手の価値観の違いにつながっていることは間違いない。 古い人に聞くと開幕投手を14度務めたウォルター・ジョンソンが活躍した1910年から1920年という時代には、メジャーでも「オープニング・デイ・スターティングピッチャー」が重要視されていたようだが、時代と共に、その価値観も変革していったようである。 ちなみに過去の日本の開幕投手の最多記録は、国鉄、巨人でプレーした金田正一氏と近鉄の鈴木啓示氏の14回で、鈴木氏の開幕戦9勝は日本記録。メジャーではミラクルメッツの代名詞的な選手の一人でレッズなどでサイヤング賞を3度受賞しているトム・シーバーが16回で最多記録となっている。