星野源、「生きていてよかった…」新人小説に衝撃、なぜ? 担当編集者が明かす異色作品の裏側「“SF色”を排除したSF小説」
■圧倒的な“孤独感”、世界観そのものがボカロ世代にマッチ
星野源や30代女性といった従来のSFファン層とは異なる新規層に同作が支持された要因はどこにあるのだろうか。 作家・小塚原旬氏は『ここはすべての夜明けまえ』をさして「ボカロ文体である」と考察しており、実際に作中にはボカロP・Orangestar氏の「アスノヨゾラ哨戒班」も登場する。溝口氏も「同作は、ボーカロイドの曲を聞いているうちに朝になってしまったときのような圧倒的“孤独感”を楽しめる」と分析する。つまり、世界観そのものがボカロ世代にマッチしたということだ。 そもそも、多様なエンタメコンテンツでSFをベースにした作品群が日々量産される中で、「SF小説」が若年層をはじめとする新規層を獲得できないという理由はない。現在のエンタメシーンのトップをひた走る庵野秀明、山崎貴、樋口真嗣らクリエイターのほとんどが古典的なSF小説を下地にした作品の影響下にある。現在進行形の人気作品にもその血が継承されていることから、「若年層=SF嫌い」の図式は成り立たない。それにも関わらず、昨今のSF小説業界では新規層の獲得が課題となっていたわけだが、『ここはすべての夜明けまえ』は、従来のSF作とは「根本的に目指している方向が違う」と溝口氏。 「この作品は、SFの手法としての斬新さはありません。この作品の新しさを何かと考えたとき、浮かぶのは90年代。当時は、映画化もされた『ファイト・クラブ』という作品を書いたチャック・パラニュークをはじめ、煽情的で社会に対して冷めた内向的な語り口で自分のことをぶつぶつと喋っているタイプの作品が流行ったのです。村上龍さんの『トパーズ』などもその文脈でしょう。こうした90年代的な語り口を、2020年代の社会問題と混ぜ合わせ、現代のリアルなトレンドを盛り込んだ点が、本作の新奇性のひとつではないでしょうか」 また、同作にはゼロ年代に国内で流行した「セカイ系」(主人公とヒロインらの小さな関係性が、中間項を挟むことなくダイレクトに世界の危機やこの世の終わりといった抽象的な大問題に直結する作品群)の影響も見られると語る。