『虎に翼』猪爪家“再起”を支えた三山凌輝の存在感 悲しみを乗り越えた寅子の再出発
NHK連続テレビ小説『虎に翼』第9週「男は度胸、女は愛嬌?」が放送された。終戦に伴い、寅子(伊藤沙莉)らは疎開先から猪爪家に戻る。直道(上川周作)と優三(仲野太賀)は戦地で命を落とし、さらに直言(岡部たかし)までもが病死してしまった。寅子が悲しみに暮れる第9週は、同時に “再起”の週でもあった。そのきっかけは、やはり終戦後に猪爪家に戻ってきた寅子の弟・直明(三山凌輝)の存在も大きかったのではないか。 【写真】役のために“10キロ減量”した三山凌輝 もともと成績優秀な直明は、帝大を目指し岡山の寄宿学校に入っていた。しかし戦争のせいで勉強どころではなくなり、この1年は勤労動員ばかり。そんなこともあり、直明は大学には進まず家族のために働くと申し出る。だが寅子は、夢を諦めてしまう弟にモヤモヤとした感情を抱えていたのだ。 ある時寅子は、「すべての国民は法の下に平等である」と記された新しい日本国憲法の条文を読み、再び法の道を歩むことを決める。それと同時に直明にも進学を進め、男だからといって全部背負う時代は終わったと諭すのだった。こうした経緯で、直明は晴れて学舎に戻ることになる。 第9週は激動の物語が描かれたが、中でも直明が“大人にならなければ”ともがき、“大黒柱にならなければ”と自分を犠牲にする様子には胸が痛んだ。誰かが夢を諦めなければいけない姿というのは、いつだって苦しいものだ。そんな直明の姿を、三山凌輝はみずみずしさたっぷりに演じてくれた。三山からは、悲しみや苦しさに浸らずに前を向こうという強い力がひしひしと伝わってくる。
直明役のために“10キロ減量”した三山凌輝の役者魂
直明は頼りになる優秀な弟であると同時に、年齢なりの勢いや若々しさも持ち合わせているが、そんなはつらつとした魅力を表情や些細な仕草から的確に表現する。くるりと丸い瞳は雄弁で、動揺、悔しさ、優しさ、決意など様々な感情を孕(はら)んでいる。それでも普段は頼もしさを前面に出して、猪爪家を引っ張ろうと気丈に振る舞う姿がことさら魅力的だった。 三山は5月28日の『あさイチ』(NHK総合)に出演した際、直明役を演じるにあたり10キロ減量したと明かしている。戦争直後を生きる役だからこそ、ほっそりとした印象を持つ役作りを目指したそうだ。こうした努力の甲斐あって、直明という人物はますます魅力溢れるキャラクターとなった。大切な人を失い沈んだ様子の猪爪家が改めて前を向くきっかけとなる人物が、あの小さかった末っ子の直明だというのも何だか嬉しい。猪爪家がいつの時代も一丸となって何度も立ちあがろうとする姿からは、家族が支え合うことの意義が感じられた。 直明は無事に進学し、今後は学ぶ喜びを噛みしめつつ自分がやりたいことを見つけていくのだろう。何を見つけ、どんな職業に就くことになるのかが楽しみだ。寅子は改めて司法省の人事課に赴き、裁判官として採用してくれるよう申し出る。ここからいよいよ新たな冒険が始まる。今後も猪爪家のそれぞれの活躍からは目が離せなそうだ。
Nana Numoto