"見えない仕事"写真で子供たちに キッチン ミノルさん、航空整備士題材に写真絵本
「“縁の下の力持ち”を取り上げたかった。仕事はひとりではできないし、見えないところに仕事があると思います」。写真による絵本『ひこうきがとぶまえに 航空整備士の仕事』(テキサスブックセラーズ)を企画し、自ら撮影・取材などを担当した写真家でしゃしん絵本作家のキッチン ミノルさんはこう話す。 【写真】荻窪で開かれた『ひこうきがとぶまえに 航空整備士の仕事』写真展 雑誌「kodomoe」(白泉社)付録の同名絵本を基に、内容を大幅に加筆修正してハードカバー化。日本航空(JAL/JL、9201)のボーイング767-300ER型機が格納庫に戻り、整備作業後に再び出発するまでの様子を時系列で写真を並べた。 米テキサス州フォートワース生まれで、18歳の時に噺家を目指すも挫折したというミノルさんは、大学でカメラ部に入部する。卒業後は不動産販売会社に営業職として就職し、宅建(宅地建物取引士)の資格も取得したが、写真家の杵島隆さんに作品を褒められたことをきっかけに脱サラ。写真を生業(なりわい)にした。 写真による絵本を出版しようと思ったのは2012年ごろ。これまでマグロが流通する過程をバトンに見立てた『マグロリレー』、牧場に泊まり込んで牛乳ができるまでを取材した『たいせつなぎゅうにゅう』などを発表していく中で、次のテーマに航空整備士の仕事を選んだ。 雑誌などで人物や料理の写真を数多く撮っていたミノルさんが、飛行機を題材にしようと思ったきっかけは、航空会社で機体の電源を入れるのが整備士の仕事だと知ったことだったという。「テレビを見ていたら、朝一番に飛行機のコックピットで電源を入れるのは整備士だと知りました。パイロットじゃないんだ、と」。 子供たちが航空業界に興味を持つ時に、まず名前が挙がる職業はパイロットと客室乗務員だろう。実際にはさまざまな職種の人が、空港の内外で1便を飛ばすための業務に就いている。一方で「見えないところの仕事」を子供たちが知る機会は限られており、縁の下の力持ちとも言える整備士の仕事を「しゃしんえほん」を通じて知ってもらえればという。 これまで扱ってきたテーマは、まず自分が知りたいと思ったことを重視し、本の構成や取材交渉なども、自分でやることにこだわった。今回もJALに自ら企画を持ち込んだ。撮影可能な時間や整備スケジュール、何よりも被写体が767限定という機材縛りもあり、当初は難しそうだとされていた767のコックピット撮影も関係者の調整で実現。整備士が電源を入れる様子を、767のコックピットでカメラに収めることができた。 5月に東京・荻窪の書店「本屋 Title」で開かれた出版記念写真展には、ストーリーに沿ってプリントされた大小の作品を出展。会場を訪れた人の中には、現役整備士もいたという。 「知る、は最高のエンターテインメントだと思います。知ろうとすることがあれば生きていける(笑)」と話すミノルさん。これからも子供たちに見えない仕事を、写真を通じて伝えていきたいという。
Tadayuki YOSHIKAWA