東京都「カスハラ防止条例」は官民のサービス担当者、窓口担当者を救えるか?
「てめえらバカか、このお役所仕事が!」
〝お客さまは神様です〟の精神で顧客へのサービスに徹していたとしても、増長した客の一部は、カスハラを繰り返す〝クレーマー〟や〝迷惑な客〟となってしまうことがある。特にそれは、ユーザーへの電話対応や窓口業務など、顧客とじかに接する、「BtoC」の現場の最前線で起こりやすいようだ。 都が示しているように、確かにそれは、民間に関わらず、行政の窓口の現場でも起こり得る。住民課で窓口業務をこなしているある区役所職員はこう話す。 「裏金問題やかつての政治家の年金未納問題など、政治家の不祥事が起こると、窓口に来る人もイラだっていることが多いですね。特に住民税や国民健康保険(国保)、年金などの徴収係は風当たりが強い。納付書が届くと〝政治家は金をガメてるのに、なんでこんなに高いんだ〟と文句を言われることは日常茶飯事です。 身分確認ができないので、印鑑証明書が即日発行できないことを説明すると、〝融通が利かねえな。てめえらバカか、このお役所仕事が!〟と怒鳴られたこともあります。また窓口で1時間近く怒声を浴びせ続けられたり、『アホか!』『このハゲ!』などと暴言を吐かれた同僚もいます。 ハナから〝親方日の丸〟で、〝お前ら、恵まれてるんだろ〟というけんか越しでくる人も結構います。窓口ではヤバそうな人が来ると、職員どうしでアイコンタクトして、誰が対応するか、心理的ななすり付け合いが起こりますね」 この職員によれば、「お役所仕事」と言われようとも、法律でできることとできないことは決まっており、相手の要求にすべて応えることはできないので、窓口業務の心理的負担は大きいという。 地方自治体職員へのカウンセリングを担当している臨床心理士がつけ加える。 「確かに行政は民間に比べて恵まれているという見方もありますが、そうした住民への対応でうつを発症してしまう例はあります。彼らは、民間のサービス業とは違い『イヤならよそに行け』とは言えませんから。それに、コロナ対策やマイナンバー制度など、国の施策はいつも急でコロコロ変わり、実務は、各自治体の保健所とか行政の窓口など、地方自治体が担うことがほとんどなので、末端の職員は、そのたびに、マニュアルを覚えたり、その対応に追われていて、負担は大きいようです」 もともとこうしたカスハラ事案に関しては、暴言やどう喝について対応する法令としては、「威力業務妨害」や「強要罪」などが存在するが、今回、東京都が制定する「カスハラ防止条例」によって、官民問わず、顧客に対応する人たちの負担を軽減し、ユーザー側の意識改革も進むだろうか――。
中原 慶一