エスティマに続け! ホンダ「オデッセイ」は背の低い乗用車感覚、時代を作った革新ミニバンだ!【歴史に残るクルマと技術061】
商用車ベースでなく流線(タマゴ)形ボディで大ヒットしたトヨタのミニバン「エスティマ」に対抗するかたちで1994年に登場したのが、ホンダの「オデッセイ」である。オデッセイは、背の低い乗用車感覚で乗れる3列シートの新世代ミニバンとして、現在も続くミニバンブームを巻き起こしたのだ。 TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・オデッセイのすべて、新型オデッセイのすべて “天才タマゴ”のキャッチコピーで登場したトヨタ・エスティマ ホンダ・オデッセイの詳しい記事を見る 1990年、それまでの商用車ベースのワンボックスタイプのワゴンとは異なる新感覚のミニバン、トヨタ「エスティマ」が、“天才タマゴ”のキャッチコピーでデビューした。 全体を曲面で構成したワンモーションのまさにタマゴのようなスタイリッシュなフォルムと3列シートの広い室内空間、ラウンディッシュなコクピットを配した近未来的なインテリアが新鮮で大きな注目を集めた。 その斬新なスタイリングが実現できたのは、独創的なパワートレインのレイアウトのおかげである。従来のミニバンは、前輪の前にエンジンを搭載するのが一般的だったが、エスティマはセカンドシート下部の床下に、2.4L直4エンジンを傾斜させて搭載したミッドシップレイアウトを採用。駆動方式は、ミッドシップFRとVCU(ビスカスカップリング)付フルタイム4WDが用意された。 販売開始とともに、アウトドア派だけでなく一般のファミリー層からも人気を獲得、ミニバンブームの火付け役となった。 オッデセイを生んだホンダのクリエイティブ・ムーバー 1980年代後半から市場を席巻したRVブームに上手く乗れなかったホンダは、独自に“クリエイティブ・ムーバー(生活創造車)”というコンセプトのFFベースの新型モデルの開発に取り組んだ。クリエイティブ・ムーバーは、実質的にはRVと同じような位置付けのクルマだが、“クルマは使う人が自らの生活を思いのままに創造・演出するための道具と位置づけ、主人公はあくまで人”という考え方で、具体的には室内空間に優れ、走行中でも停車中でも楽しめるクルマを指す。 その第1弾が、ミニバンブームをけん引したオデッセイである。続いた第2弾は、都会派SUVとして人気を獲得したトヨタ「RAV4(1994年~)」に対抗して登場した オフロードも走行できる都会派SUV「CR-V(1995年~)」。第3弾は、コンパクトな5ナンバーサイズながら広い室内空間と快適性を実現したコンパクトミニバン「ステップワゴン(1996年~)」、第4弾は車高が高くユーティリティに優れた「S-MX(1996年~)」である。 S-MXの人気は限定的だったが、オッデセイ、HR-V、ステップワゴンはいずれも大ヒットを記録し、当時不振に喘いでいたホンダを復活させる原動力となった。 背の低い乗用車感覚のミニバンとして大ヒットしたオデッセイ エスティマに先を越されたホンダは、1994年にエスティマよりさらに乗用車ライクで、ステーションワゴンの背を少し高くしたようなスタイリッシュなミニバンのオデッセイで巻き返しを図った。 アコード用のシャシーやエンジンを使い、全高を1650mm程度まで下げた空力に優れたスタイリングが特徴で、後席ドアはミニバンの特徴であるスライド式ではなく、乗用車感覚を大事にしてあえて乗用車と同じヒンジ式を採用した。 ボディタイプは、2/2/2人の6人乗車と2/3/2人の7人乗車の3列シートを用意。パワートレインは、140psを発揮する2.2L SOHCエンジンと4速ATの組み合わせ、駆動方式はボンネット内にエンジンを搭載したFFベースで、デュアルポンプ式4WDも用意された。ボンネット内にエンジンを収めることによって、車高が低くても広い車室内空間を確保したのだ。 車両価格は、179.5万円/205.5万円/245.5万円の3つのグレードが設定され、従来のミニバンの常識を覆した乗用車感覚のオデッセイは、1995年には販売台数12万を超える空前の大ヒットを記録した。ちなみに、当時の大卒初任給は19万円程度(現在は約23万円)なので、単純計算では現在の価値で約217万円/249万円/297万円に相当する。 市場は、背の低いミニバンから背の高いミニバンにシフト オデッセイが開拓した乗用車のような背の低いミニバンは、その後ホンダ「ストリーム」やトヨタの「ウィッシュ」、「イプサム」、日産自動車の「プレサージュ」、マツダ「プレマシー」、三菱自動車「グランディス」など続々と登場してミニバンブームを巻き起こした。 しかし背の低いミニバンは、乗用車のようにスマートで扱いやすいというメリットはあるもの、3列シートを無理してレイアウトしているので室内空間に余裕がなく、また乗降が大変という課題は避けられなかった。ファミリーユースなら、やはり背が高く室内空間が広い方が便利ということで、2010年を迎える頃には市場の要求は、全高の高いボクシーなミニバンへとシフトし始めた。 この流れを受けて、オデッセイも2013年に登場した5代目では、ついにそれまでの背の低いコンセプトを一変させた。全高を初代よりも45mm高い1695mmに設定し、左右のスライドドアを採用。人気を獲得していた背の高いミニバンに近づけたのだ。 しかし、“時すでに遅し”で人気の低迷に歯止めをかけることはできず、2024年現在は中国生産車を輸入して国内販売しているが、かつてのような勢いはない。 オデッセイが誕生した1994年は、どんな年 1994年には、オデッセイ以外にもトヨタの「RAV4」、三菱自動車「FTO」などが誕生した。 RAV4は、4WDを装備してオンロードでもオフロードでも快適に走れるコンパクトなクロスオーバーSUVで、街中の走行が似合う都会派SUVのパイオニアとなった。 FTOは、前年の「コルトギャランGTO」の弟分という位置づけでデビュー。比較的高価なGTOに対し安価でより若い層をターゲットにしたクーペである。 F1界では、衝撃的なことが起こった。5月のサンマリノGPでF1のスーパースターのアイルトン・セナがレース中に事故死するという悲報が世界中を駆け巡り、多くのファンが涙した。 自動車以外では、大江健三郎氏がノーベル文学賞を受賞。日本人初の女性飛行士、向井千秋氏が初めて宇宙に飛び立った。その他、関西空港が開港したのはこの年だった。 また、ガソリン110円/L、ビール大瓶320円、コーヒー一杯390円、ラーメン482円、カレー600円、アンパン100円の時代だった。 ・・・・・・ 従来の商用ワゴンベースのミニバンではなく、背の低い乗用車のようなミニバンで一世を風靡した「オデッセイ」。現在も続くミニバンブームの先導的な役目を果たした、日本の歴史に残るクルマであることに、間違いない。
竹村 純