日本銀行大阪支店旧館。ドームを中心に左右対称を強調している

今月26、27日の2日間、大阪市内を中心に約170の建物などを無料公開する建築イベント「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2024」（イケフェス大阪）が開催される。江戸時代から令和の現代建築まで、さまざまな用途で活用されている「生きた建築」を体感できる人気イベントだ。多彩な建物群の中から今回は、資本主義勃興期の大阪を支えた象徴的な存在でもある金融街ゆかりの建物をイケフェス大阪の運営に携わる3人の専門家とともに訪ねた。 【写真】内玄関のステンドグラス。いかめしい外観と違ってどこか愛らしいデザインだ ■明治から120年 大阪市中心部に位置する淀屋橋。昔も今も大阪経済を代表する企業が集積する場所だ。土佐堀川を渡って中之島の市役所前まで来ると、御堂筋を挟んで重厚なたたずまいをみせる建物が目に入る。築120年超の明治建築、日本銀行大阪支店旧館。中之島に残る近代建築の中では最も古い。 設計の中心は、東京駅などの作品で知られる辰野金吾（1854～1919年）。とはいえ、東京駅でみられるような赤レンガの壁に白い花崗（かこう）岩の帯を巡らせた華やかなイメージとは程遠い。辰野が東京で手掛けた日銀本店の建築と同様、壁は石張りで統一され、重々しい印象を与えている。 「西洋建築を学んだ日本人建築家の第1世代にあたる辰野たちに求められたのは、建物の用途にふさわしい様式を正しく選び取り、実現させることでした」 そう話すのは、建築史家で大阪公立大の倉方俊輔教授。国家の秩序を支える日銀の建築を飾るにふさわしい「衣装」とは何かを模索した上で、当時の辰野は堅固でクラシカルな様式を採用したのだ。 ■西洋建築精通 「日本では屋根を隠すという考え方は珍しいと思いますが、西洋の古典建築は屋根が露出することを避ける傾向があります」 倉方教授の説明を聞き、改めて旧館の建築を見直してみた。御堂筋をはさんで建物の正面を見ると、屋上には背後の屋根を隠すように手すりをかたどった装飾が巡らされ、街路からの視線を軒まわりに集中させる工夫がみられることがわかる。また、外観は左右対称になるよう徹底され、中心にあるドームや玄関部分がより強調される効果を生んでいる。 「シンメトリーを重視するのは西洋建築の基本。屋根を隠す手法も含め、西洋建築特有の約束事に精通した当時数少ない建築家の一人が辰野だったのです」（倉方教授）