独立3日目のみなみかわと語る「2024年5月のお笑い」
ウエストランド井口と構成作家・飯塚大悟が毎月のお笑い界の出来事を勝手に振り返る連載「今月のお笑い」は、今回で3年目に突入。そんな節目に、長年所属した事務所から独立し、妻が立ち上げた合同会社ナンセ所属としてリスタートを切ったみなみかわをゲストに迎えた。共演の多いみなみかわの登場に井口のテンションもいつもより高めで、ハングリー精神が突如爆発する場面もありながら、芸人として今後どうなりたいか?という将来像についてたっぷり語った。清野とおる描き下ろしの新しいヘッダーイラストもお楽しみあれ。 【動画】ひょうろくが自ら演じる架空マネージャーの実態に迫る(他5件) 構成 / 狩野有理 ヘッダーイラスト / 清野とおる ※取材は6月3日に実施。 ■ なんで辞めたんですか? 井口 今月はなんと、みなみかわさんが来てくれました! みなみかわ ありがとうございます! 独立から3日でございます(※)。 飯塚 今一番ホットなゲストです。 井口 で、なんで独立したんですか? みなみかわ なんでって(笑)。 井口 いろんなところで聞かれるわけじゃないですか。どう答えてるんですか? みなみかわ 今は「史上初の円満退所でございます」で乗り切ろうとしてる。 井口 でも、もっと追及されるでしょ? 「円満なら辞めなくていいじゃないですか」って。 みなみかわ まあ、芸人誰しもいつかは事務所を辞めなあかんやん? 飯塚 そんなことはないんじゃないですか(笑)。 みなみかわ 吉本やったら劇場もあるしずっとやっていけますよ? でも、吉本以外はいつかは辞めないといけないっていう問題をはらんでいるわけですよ。 井口 でも確かに、みなみかわさんはこういうキャラクターだから目立ってますけど、今けっこう独立する人増えていますもんね。 みなみかわ 辞めた人のほうが友達多いのよ。TKOさん、さらば青春の光、お見送り芸人しんいち、街裏ぴんくとか、仕事でもよく絡むし。事務所ライブもほとんどないから、じゃあいてもいなくても同じかなっていうのがリアルよね。 井口 算段はあったんですか? みなみかわ 算段なんかないよ。全然ミスる可能性もあるし。 井口 「M-1」優勝以降、みなみかわさんとは一番と言ってもいいくらい共演させてもらっているじゃないですか。だから週刊誌で報道が出たときびっくりしました。こんなに共演もしてて、直前も一緒に飲んでたのに教えてくれないなんて!って。 みなみかわ ちょっと待ってくれよ。言ったやん、お前に! 井口 いや、そうなんです。報道を見て最初は「聞いてないよ!」って思ったんですけど、よくよく思い出したら、飲んでるときに「今後どうするんですか?」「もう辞めるわ」「またまた、そういうのもういいっすよ!」みたいな会話をしてたんですよね。辞めると聞いてはいたけど、僕が本気にしてなかったっていう(笑)。 みなみかわ 俺けっこう、ここはちゃんと伝えておかなあかんと思って事前に話したのに。オオカミ少年みたいなことになってるやん。その飲み会の最後、きしたかの高野と一緒になって、「ほんまに辞めんねん」って言ったら高野だけは「本当なんですね」って言ってくれたわ。 井口 あいつはまだ心が清いから信じたんでしょうね。僕とかは「いやいや、そういうんじゃなくて!」みたいに思っちゃいましたから(笑)。本当のことを言ってくれてたんですね。 飯塚 初めてのパターンだなと思ったのが、週刊誌の直撃を受けて本人が認めて、事務所も認めて、「正式発表はこのあとです」みたいな流れだったじゃないですか。週刊誌のすっぱ抜きをすぐ認めるって珍しいですよね(笑)。 みなみかわ 直撃されて、 こっちも別に嘘つきませんから。「4月に辞めるんですか?」と聞かれたので、「いや、5月ですよ」と本当の情報を渡したんです。一応、事務所的にも文章を出さないといけなくて、どうしようと思って横のデスクをパッと見たら、直近で退所したキンタロー。の雛形があったから、それをベースにちょいちょいっと変えて事務所サイトに出しました(笑)。 井口 キンタロー。ももしかしたらその前の人の雛形を使っているんじゃないですか? みなみかわ TKOさんのやつかも(笑)。由緒ある雛形ですよ。 飯塚 うなぎ屋のタレみたいになってる。継ぎ足し継ぎ足しで(笑)。 ※編集部注:みなみかわは2024年5月末でそれまで所属していた松竹芸能を退所し、独立。妻が代表を務める合同会社ナンセに籍を置く。 ■ みなみかわが単独をやる意味 井口 飯塚さんは、去年のみなみかわさんの単独ライブに作家として入っていたんですよね。 みなみかわ うちの妻が飯塚さんにDMでオファーして。飯塚さんのことはもちろん知ってましたけど、ちゃんとしゃべったことはなかったんですよ。人柄とかもよくわかってなかったし、オファーしても嫌がられるだけかなと思いきや、意外とOKしていただきましたね。 井口 みなみかわさんが「あちこちオードリー」(テレビ東京)とかでその話をしていたから、飯塚さんの名前が世にどーんと出ましたよね。 飯塚 テロップにまでなってた(笑)。でも、僕も怖かったですよ。奥さんは指名してくれましたけど、ご本人がどう思っているかはわからかなったから。みなみかわさんって作家のことをけっこうイジったりもしているし(笑)、お笑いナタリーで連載やって、裏方のくせに語ってるとか、きっと嫌いだろうなと思って。 みなみかわ いやいやいや、勘違いしてほしくないのが、僕が言うのは直接攻撃してきた人のことだけですよ! 井口 そういう流儀があるんですね(笑)。 みなみかわ 僕は僕で、「こいつは一体どういうネタをやりたいんだ?」って飯塚さんもやりづらいだろうなと思っていましたよ。そんな中でもとんでもない量の案を出してくれて、ほんまに感動しました。 井口 僕も飯塚さんに1回単独をやってもらいましたけど、とにかくたくさん案を出してくれますよね。 飯塚 みなみかわさんもウエストランドも、自分の内から出るものをネタにしているから、コントの設定を考えるのとはちょっと違う作業なんですよ。性根でやってる人たちだから。 井口 飯塚さんに言われましたよね、「井口くんが何に怒ってるか知らないよ」って(笑)。作家さんを付けられない芸風ではありますね。とはいえ飯塚さんはパッケージを作る能力もめちゃくちゃ長けているので、僕は今年の「R-1」は飯塚さんにパッケージにしてもらったものをそのままやりました。 みなみかわ でも俺は設定のあるコント演じたいよ? 井口みたいに悪口ばっかりじゃないところも見せたいし。 井口 みなみかわさんみたいなタイプの人が単独をやるのってどうなんですか? 意味あります? みなみかわ 質問が失礼すぎるやろ(笑)。 飯塚 井口くんは単独やりたくない派なんですよ(笑)。やったほうがいいと思いますけどね? 「単独やってないとナメられる」と言っている芸人さんも多いと思う。やっていないと自分自身も「単独やってない」っていう後ろめたさを感じると思うし。 みなみかわ 自分としてもやりたいはやりたいんですけど、みなさんが興味あります?と思っちゃうんですよ。だから、興味を持ってもらえるように1年に1回か2年に1回の宿題にしようかなっていう気持ちはあります。悪口ばっかりでやってたら嫌われるだけなので。 井口 ネタについてはどう思っているんですか? みなみかわ ネタもしたいけど、「R-1」とかとはちょっとニュアンス変わってくるよね。カンニング竹山さんが1年に1回単独ライブをやっているのに近い感じ。やれることは全然違うけど。僕だって、単独ライブとかもちゃんとやれる人間になりたいですよ。 飯塚 例えば永野さんっていろいろな番組に出て偏見たっぷりの持論を展開しながらも、ネタがまず面白いじゃないですか。本当に悪口だけ言ってる人と、ちゃんと本業もやって悪口を言っている人だと、見え方はだいぶ違いますよね。 井口 もともとみなみかわさんってライブを打ちまくる人でしたよね。1週間断食した人と大喜利対決とか、かもめんたる槙尾さんをフィーチャーした公演とか、けっこう変わったライブをやっていて。 みなみかわ 1週間断食してゾーン入った芸人VS実力派芸人、どっちがおもろいねん対決とかな。 井口 今では信じられないけど、断食側でヒコロヒーが出てましたからね(笑)。 みなみかわ ヒコロヒーと俺と、口笛なるお(笑)。ライブは好きなので、またやっていきたいですね。井口も出てくれよ。 井口 一応聞きますけど、みなみかわさんに関わるのって大丈夫なんですよね? みなみかわ お前、ええ加減にせえよ?(笑) 妻の戸籍出そうか? 井口 いやいや、念のためね? ■ 麻酔から目覚めても一人 飯塚 独立して、以前と変わることはあるんですか? みなみかわ まったく変わらないですね。 飯塚 じゃあ単純に、取り分が増えるっていう。 みなみかわ みんなそう思っているかもしれないですけど、そんなことまったくなくて。 井口 もういいですよ、それ。みなみかわさんがXXCLUBの大島とやってるポッドキャスト「炎上喫煙所」で、僕の貯金額が4、5000万みたいなことを勝手に言ってますけど、やめてくださいよ。自分でしょ? みなみかわ これははっきり言わせてくれ。俺はもちろんないよ。でも、井口は確実にあるやん? 井口 ない! わかるでしょ? あるわけないじゃないですか。 みなみかわ 井口は一体何にお金使ってるのよ? 井口 Uber Eatsとか頼んでるんで、こっちは毎月赤字なんですよ! みなみかわさんのほうがあるでしょ、独立したんだし。僕とは雲泥の差ですよ。 みなみかわ 俺はほら、家族がいるから。 井口 でも奥さんもカリガリマキオカリーで働いてるじゃないですか。 飯塚 どっちも絶対「稼いでる」って認めないから、これ延々と続きますよ……(笑)。 井口 みなみかわさんは体を張る仕事をしていきたいってよく言っていますけど、今どうですか? 年齢重ねて。 みなみかわ 僕、今年42歳なんですよ。40歳になってようやく仕事が来はじめたけど、今ってコンプライアンス上、体を張らせてもらえないことも多いし、そもそも自分の体力の限界も近づいて来てる。この両方が持つのは50歳くらいまでやと思うんですよね。 井口 でもパンサー尾形さんとか、元の体力がすごいじゃないですか。 みなみかわ だから俺、ジム通おうと思ってる。 井口 体張るために? みなみかわ そうそう。井口はあんま体張れへんよな? 井口 僕も張ってますけど、みなみかわさんとは種類が違うんです。「ちっちゃい奴がこんなことさせられる」系なので。 飯塚 ひどい目に遭わされてばっかりだよね。 井口 みなみかわさんみたいな体型の人は同じくらいデカい人と戦ったりとか、スケールが大きいじゃないですか。僕は(手をジタバタしながら)ポコポコやられるか、箱に閉じ込めらるとかなので。 みなみかわ マンガチックなんや。 飯塚 それこそ去年の単独ライブは「水曜日のダウンタウン」(TBS)の金網デスマッチの翌日でしたよね。 みなみかわ 足引きずりながらやりましたよ(笑)。 井口 本当に若手芸人の高齢化が進んでますから。気をつけていかないと。 みなみかわ 願わくば60とか70まで体張りたいよ。最近の若い人ってあんまり体張りたくないんでしょ? 体張るのはカッコ悪いとさえ思ってる。俺なんか、下ネタエロ番組やって、人の悪口言って、体張って、本当に誰からも憧れられないよな。 井口 悲しいっすね(笑)。 飯塚 人生経験として「熱湯風呂やってみたいです」みたいな若い人はいますよね。 井口 キッザニア的な。 飯塚 「テレビで見てたからやってみたい」はあるけど、それを本職にしたがる人はいない。 みなみかわ 俺が聞きたいのは、井口は「M-1」も獲ったやんか。今後どうなりたいの? MCとかは別にやりたくないやろ? 井口 やりたくないことはないですけど、与えられたことを全力でやるって感じなので、自分で企画を考るとかは興味がないんですよね。 みなみかわ そこは似てる。その場がウケりゃいいって思ってるでしょ? 井口 その場、その場ですね。もちろん自分の番組も持ちたいですし、MCもやらせてもらえるならやりたいですけど、自分発信で「これやりたい!」ってことは何ひとつないです。 みなみかわ 例えば爆笑問題・太田さんみたいに、本を出版したいとかもない? 井口 そうですね。映画監督をやりたいとかも1ミリも思いませんし。 みなみかわ この先のビジョンはどう考えてるの? 結婚とかさ。 井口 そこは確かに、虚しさというか。みなみかわさんと僕の大きな差ですよね。 みなみかわ 俺は一応家族がいるもん。飯塚さんも。 井口 この間、入院してたんですよ。お腹にあったしこりを取る手術をしたんですけど。その手術に、1人で行って、麻酔かけられて、1人で目覚めたときに感じましたね。病院の人も「誰か付き添いの方は来ないんですか?」って驚いてましたよ(笑)。 みなみかわ 何それ、めっちゃおもろいやん! 普通はパートナーとかが付き添うもんな。 飯塚 後輩とか。 井口 いやいや、1人です。唯一、社長が来てくれるとは言っていたんですけど。 みなみかわ 心配やで、井口が。 飯塚 独身芸人といっても、独身を謳歌していそうなチュートリアル徳井さんやピース又吉さん、平成ノブシコブシ吉村さんとは違うからね。 井口 別に謳歌もしてないんで。 みなみかわ それが怖いねん!(笑) 謳歌してくれよ。 井口 誰かといるのが無理っていうのもあるかもしれないです。僕なんて、裏表ないじゃないですか。仕事でしゃべって、楽屋でもしゃべって、さすがに家ではオフらないとっていう。 みなみかわ 芸人とおるときが一番楽しいわけでしょ? 一般の人としゃべることはあるの? 井口 極めて少ないとは思います。ほぼない。 みなみかわ それ、よくないと思うわ。お笑いやりすぎてて頭おかしなってる。ただただお金だけ貯まって。 井口 優勝後、何に一番お金使ったって、入院費ですからね。何やってんだよって思いますよ、この人生。 みなみかわ 悲しすぎるって!(笑) 井口 一生懸命働いたお金で入院費払って終わりです。 みなみかわ 悲しいなあ。5年後どうなってるかわからへんな。 井口 まあ、テレビにとにかく出続けたいっていう強い意志はあるので。テレビにはモンスターだらけだから自分が5年後、10年後にも生き残れているわけがないって絶望を感じるタイプの人もいますけど、そこはなぜかすごく楽観視しているんですよね。通用しないとか全然思わない。なんとかなるでしょって。 ■ MC格になる素質 ──みなみかわさんは体を張れなくなる未来のために準備していることはあるんですか? こういう仕事にシフトしていこう、みたいな。 みなみかわ 永野さんとか、ああいう方々の目は気になるんですよ。「みなみかわ、日和ったな」と思われたくないというか。でも、年齢と共にお笑いの興味を持つ部分が変わっていくのは自然なのかなと最近思っていて。それは変わっていくものだし、エッセイ書いたりしちゃうかも(笑)。 井口 読みたくはないですけど……(笑)。 みなみかわ なんでやねん! 今これをするって決めているわけじゃないですけど、自然とそうなっていくのかなと思っていますね。 井口 テレビで天下獲りたいとかは考えないんですか? MCをやっていきたいみたいな。 ──東野幸治さん的なポジションとか。 みなみかわ めちゃめちゃ憧れてはいますけど、それこそバケモンですからね。いかんせん能力がまったく追いつかないです。飲みに行かずに映画やドラマを観てるっていう方向は似てるかもしれないですけど、あんな量は観てないですし。 飯塚 東野さんは、「マルコポロリ!」(関西テレビ)やYouTubeを見ていると後輩の面倒見がいいというか、「救ってあげたい」みたいな気持ちがあると思うんですけど、そういう素質がある人がMCの格になれるのかなっていう気がします。有吉弘行さんもそうですし。みなみかわさんって後輩を携えているイメージがあんまりないから、そのへんどうなんだろうと思って。 みなみかわ 後輩は気を使っちゃうんですよね。 井口 僕もちょうど最近それを考えていて。僕は長いことライブに出ていたので、今の学生お笑いの奴とも一緒にやっていたんですよ。それこそ令和ロマンとかナイチンゲールダンスとか。そういうライブで一緒だった後輩たちが売れてきたときに、僕がもっと活躍していれば、なんかいい未来が切り開ける気がするんですよね。若手と接してきた人って、吉本を除けばおそらく僕くらいしかいないので。そう思うと、天下がどうこうとかでは全然ないですけど、ちょっとはそこで一緒にやっていけるんじゃないかなと想像してます。「テレビに出続けたい」ってただ言っていてもどうしようもないけど、これから来るだろう若手を知っているから、最悪そいつらにすがればいいかなって(笑)。 みなみかわ 僕はつい最近、さや香の新山と連絡先交換したから、新山と仲良くなっていこうと思ってます。 井口 ずいぶん変なところに行くんすね?(笑) みなみかわ 俺が今「吉本のこいつを可愛がるぞ!」って決めたところでなんてこと言うねん?(笑) 飯塚 みなみかわさんってコラムを書いたり、映画に詳しかったりするし、単独のオープニングの映像を見たときにめちゃくちゃ役者だなと思ったんですよ。カルチャーの方向への広がりもありそうなところは井口くんとは違いますよね。 みなみかわ そうなんですか? 飯塚 井口くんは面白いと思う映画があんまりないんだよね(※)。 井口 そうですね。感動とかはしないです。 みなみかわ やばすぎるやん。お笑い至上主義すぎるって! お笑いの周りには映画とかもあるわけやから、そのカルチャーを取り入れたほうがよくない? 井口 そんなのなくても「M-1」優勝してますから。 みなみかわ ……。 井口 なんか、言い訳がましいじゃないですか。映画観てないでお笑いやれや、というか。 みなみかわ それは趣味なんから、映画観てる芸人に「お笑いやれや」って言うのはおかしいやん? 井口 映画を観てることでマウント取ってくる奴がいるんですよ。そのくせ、お笑いでは僕に勝ててないから。 みなみかわ 井口はお笑いを勝ち負けで考えすぎやねん。 井口 あなたが映画を観たほうがいいとかごちゃごちゃ言ってくるからですよ! 言わなきゃ僕も黙ってますけど。いつかは僕も脚本とか書いて、ぶち抜いてやります。 ──えっ? 井口 「えっ」じゃないんですよ! マジで、映画たくさん観てるマウントを取ってきた奴をぶち抜いてやるんですよ。 みなみかわ 「ぶち抜く」って何?(笑) 映画マウント取ってきた奴って誰? ほんまに存在する? 井口 ほとんどの奴がそうなんですよ。 みなみかわ 全然統計取れてないやん!(笑) ※編集部注:井口は「映画を観ると粗ばかりが気になって全然感動できない」と「2023年9月のお笑い」で語っており、「チャンスの時間」(ABEMA)でも企画化された。 ■ 「THE SECOND」はちゃんとした人が勝つ大会 ──では、そろそろ5月のお笑いの話をしましょう。 井口 ここからですよ。 みなみかわ え、こっから? 飯塚 さっきまでの話はほとんど記事にならないです(笑)。 井口 雑談すぎたんで。 みなみかわ ええ!? この1時間なんやったん? ──雑談も使うので安心してください。まずは「THE SECOND~漫才トーナメント~」の結果を振り返りましょうか。 飯塚 お二人はどうでした? みなみかわ もちろんすごい面白かったんですけど、見てて思ったのは、出る側としても見る側としても、6分の漫才を3本ってちょっとキツいんかな?と想像しちゃう瞬間もありましたね。 井口 ガクテンソクさんが一番6分ちゃんと漫才を続けてたっていう感じでしたよね。「THE SECOND」の魅力と言えばそうなんですけど、けっこうツカミで時間を使っている人も多い中で。ザ・パンチさんが準決勝まで盛り上がって、決勝で最低点を出すのが前回のマシンガンズさんと一緒の流れではありましたよね(笑)。 飯塚 漫才の賞レースというよりは、「THE SECOND」という別の競技という感じはした。“持久力漫才決定戦“みたいな。3本やり切ったときに、お客さんがちゃんとついてきてくれているか。あと、予選は1本ずつなので、決勝と予選でけっこう違う感じはありましたね。ウエストランドが出てたら、2本目までは盛り上げるけど3本目で構成がきっちりした漫才に負けちゃうだろうなって思った。 井口 確かに、自分が出ていたら「(点数)低くないですか?」とか言ってる絵しか浮かばないです(笑)。 みなみかわ 「1点多すぎるって!」とかな(笑)。 井口 人間味とかそれまでの苦労にスポットが当たる部分ももちろんありますけど、「優勝する」ということに関してはどの大会よりちゃんとした人が勝つ大会だなと思いました。 飯塚 華やキャラクター以上に、話芸とか台本としての完成度の高さが求められる気がする。例えば3本とも違う種類のネタを用意したほうがお客さんを飽きさせない、とかもあったかもしれない。 みなみかわ そうなってくると劇場がある吉本が俄然強いよなあ。 井口 タイムマシーン3号は決勝決まってからこの日まで1本もライブなかったって言ってました。 飯塚 ガクテンソクの優勝後に出ていたインタビュー記事で、前回のマシンガンズのアドリブ漫才に対して関西の芸人から「あれは(ウケすぎるから)やっちゃいけない」という意見も出ているというような話が載っていましたけど、例えばネタ中に「全然ウケねえじゃねえか!」とか言うと、会場の空気がキーンとなる人もいるじゃないですか。得点が出たときに「低っ!」とか言うのも、ウケる人と冷める人がいて、それはその人の持っているものですよね。誰しもできる技ではないし、マシンガンズさんはそれができる人だっていう。 井口 昔タモンズさんとライブで一緒になったとき、僕らが日本エレキテル連合の名前を出していたら、「吉本じゃ絶対あんなのダメと思ってたけど、ウケたらなんでもええんやなあ」みたいに優しく受け入れてくれたんですよ。その文化の違いはありますよね。 みなみかわ 固有名詞を出す、出せへんとかはあるよな。俺も単独ライブでバンバン出してもうたから、そこを指摘されたら恥ずかしいわ(笑)。 井口 僕だって「R-1」がどうこうって言って優勝してるわけですから。邪道ですよ(笑)。 みなみかわ お互い邪道芸人やねんな。 井口 ただ、「M-1」は邪道というか王道じゃなくても優勝できると思うんですよ。マヂカルラブリーさんとかも優勝しているわけだし。 みなみかわ ウエストランドは「THE SECOND」出られへんのやろ? 井口 みんなが思い浮かべるような漫才の大会で優勝した人は出られないんですよ(※)。 みなみかわ そうなん? じゃあ、再結成した湘南デストラーデは? 井口 湘南デストラーデが優勝してるのは「漫才新人大賞」。出られるに決まってるでしょ!(笑) ※編集部注:「THE SECOND~漫才トーナメント~」は全国ネットで放送される漫才賞レースで優勝したことのある芸人は出場できない。 ■ ひょうろく、まだまだ謎のままでいて 飯塚 「M-1」の場合、初決勝の人は(審査員と)「初めまして」のつもりでやればいいと思いますけど、「THE SECOND」は審査員がお笑いファンだから難しいですよね。ザ・パンチさんで言ったら、15年前の「M-1」決勝のことを審査員がどれくらい知っているのか。 井口 「M-1」は自分がどれだけ知られていて、どれだけ知られていないかを読む「究極の客観視」が必要だってこの連載でも言っているんですけど、確かに「THE SECOND」でそこを読むのは難しいかもしれないです。ちなみにみなみかわさんは審査員やったことは……ないか。今後もないですよね? みなみかわ お前さあ、今「ロンドンハーツ」(テレビ朝日)の格付けちゃうぞ?(笑) 審査員の話はもちろん来てないけど、養成所の講師はやってみたい。 飯塚 やったらいいじゃないですか、ナンセでお笑いセミナー。 井口 所属芸人は今後増やしていくんですか? みなみかわ 妻は採りたいみたいよ。ひょうろくにオファーして、断られたけど。 飯塚 ひょうろくさんの話もしたいですね。 井口 「水曜日のダウンタウン」に3週連続で出て、毎回話題になってますもんね。 飯塚 「ドキュメンタル」のひょうろくさんがすごかったって以前(※)も話したんですけど、呼ばれた場所でちゃんと結果を出す人ですよね。ついこの間、さらばのYouTubeでひょうろくさんが扮している架空マネージャーの企画が上がったんですけど、それもめちゃくちゃ面白かった。フリーのひょうろくさんが自ら架空のマネージャーを演じて、仕事のオファーに対応するっていうドッキリ。 みなみかわ ひょうろく面白いですよね。「芸人」というカテゴリーじゃないほうがいいんじゃないかって森田は言ってました。 飯塚 ひょうろくさんがバズると必ず昔の動画が出て、「全然今と違うじゃん!」ってなりますよね。ウラを暴いたような投稿をしてる人もいるけど、僕は「昔はがんばって芸人然としようとしてたんだろな」って思いました。 みなみかわ 本人が言ってましたよ、昔は無理してて、今のほうが自然な感じやって。 飯塚 昔の姿が本当で、今キャラを作ってると言う人もいて。 みなみかわ もしそうだったら、今何キャラやねん?(笑)。 飯塚 「このキャラで売れるぞ」って、戦略的に作るキャラじゃない(笑)。 みなみかわ ひょうろくとしか言いようがないキャラだから、これが自然なんかなと思いますよ。 井口 僕は実際に「ドキュメンタル」でひょうろくさんを食らってますから。笑っちゃうんですよね。「よくその準備で『ドキュメンタル』来たな!?」っていう。 飯塚 なんだかわからない存在だから余計に面白い。 井口 そうなんですよね。だから、これ以上メジャーになってほしくないって思っちゃいます。わがままですけど。トーク番組とかで人柄を掘り下げられたら冷めちゃいそうというか。野暮なことはしてほしくない。 みなみかわ ミステリアスさがいいもんな。それこそカテゴリー「役者」でいたほうがいいかも。 井口 芸人だったら過去とか家族とか、丸裸にされますもんね。 みなみかわ ひょうろくは「水ダウ」とさらばのYouTubeのダブルパンチが効いてると思うんですよ。「さらばのYouTube見ました」って言われる回数、「水ダウ見ました」の回数と張るときありますから。それくらいのコンテンツを作り続けてるさらばがマジですごい。架空マネージャーの企画も、井口が来られへんかった飲み会あったやんか。あの会でしゃべった話やったのよ。で、次の日には企画にしてるんやから。 飯塚 企画力とかスピード感が群を抜いてますよね。そんな中、単独ライブもめちゃくちゃ面白いという。YouTubeも単独ライブのコントも、テレビではできないようなスレスレ感が常にあって、そこも2人の魅力になってる気がします。 みなみかわ あの忙しさの中コント作ってYouTubeもやってるって、怖いですよ。こっちもサボられへんで。 ※編集部注:ひょうろくについては「2024年1月のお笑い」でも「あまり掘り下げないでほしい」と希望を語っている。 ■ ナイツ塙に見つかったJPの特殊さ 飯塚 JPさんが「ナイツ ザ・ラジオショー」(ニッポン放送)にゲスト出演した回がめちゃくちゃ面白かった。ピッチャーとキャッチャー、エレベーターとエスカレーターがわからなくなる、という告白から始まり、言葉じゃなくて音や映像で覚えているから人や物の名前を一発で言えないとか、特殊な性質をナイツが掘り下げるんですけど、ナイツも曜日パートナーの相席スタート・ケイさんも爆笑してて。塙さんも「ある意味天才」と言っていたけど、感覚が研ぎ澄まされた人ならではのものがあるのかなと思った。 ──「アメトーーク!」(テレビ朝日)の「運動神経悪い芸人」で共演したときに、塙さんだけがJPさんの“ヤバさ“に気づいていた、という話をされていましたね。 みなみかわ JPさんって確かにめっちゃ変わった人で、「座王」(関西テレビ)の収録に行くときに新大阪からお見送り芸人しんいちと3人でタクシーに乗ったんですよ。何気なく「JPさんって将来はどうしていきたいんですか?」って聞いたら、「俺ヒーローになりたいんですよ」と言うんです。戦隊モノとかが好きで役者さんになりたいんかな?と思ったら、「いや、ヒーローになりたいんです」って言われて、そっから全員無言(笑)。 井口 この前ちょうど僕も意外な番組でJPさんと一緒になりましたよ。今ちょうどその特殊な部分がピックアップされつつあるのかもしれないですね。とんでもないことを言い出す可能性があるぞっていう。 ■ 最下位芸は高度なテクニックです 井口 今の若手って、歯並び悪いのとかも「言わないでください」みたいな感じなんですよ。 ──恥ずかしいからってことですか? 井口 そうです。僕みたいに歯が2列ある奴って実はけっこういるんですけど、全然言っていこうとしない。僕からしたら「チャンスだろ!」と思うんですけど。 飯塚 どう思ってるんだろうね、井口くんのこと。 井口 だから、本当にバカにしてるんでしょうね。 飯塚 「キモッ」って? 井口 「キモッ」って思ってると思いますよ。「よくやってらあ」って。でも究極、本当の事言うと、僕らもテクニックでやってるわけじゃないですか。ねえ、みなみかわさん! みなみかわ そんなことまで言うなよ(笑)。俺はパッションでやってるよ。 井口 いつもうまいこと炎上しないように面白くリアクションしているじゃないですか! みなみかわ いや? 井口 「ロンハー」でひどいこと言われても、ちゃんとみなみかわさんの返しが面白いから成り立っているわけですよ。その腕がないから、若手は2列の歯も見せない。 みなみかわ やめてくれる?(笑) 俺は本当に思ったこと言ってるだけ! 見た目のことも全然言われたくないし。 飯塚 でも、特殊技能だと思いますよ。この連載でも話すんですけど、次世代最下位芸人がなかなか出てこない昨今、貴重な存在だと思います。 井口 ずっと僕らだけで最下位芸をやってるじゃないですか。最下位奮闘劇を。まあ、上位の人は上位ならではの悩みがあるみたいですけどね。それをみなみかわさんに話したらブチギレてましたけど(笑)。 飯塚 「最下位練習会」ってライブやってみたいですね。最下位になったことない人を呼んで、最下位立ち回りを井口くんとみなみかわさんが採点する。 井口 それいいかもしれないですね。最下位芸を磨くっていう。後世にバトンを繋いでいきましょう。 飯塚 井口くんも出ていた「アメトーーク!」の歯を矯正してる芸人で、アンガールズ田中さんの火の起こし方が鮮やかすぎた。 みなみかわ 田中さんはえげつないです。 飯塚 普通にトークしてて、いきなり吉本軍との戦いに普通は持っていけないじゃないですか。何もないところからドーンってやれる、あの能力はすごかった。 井口 田中さんは最下位芸をぶち抜けた人ですよね。 飯塚 最下位芸からちゃんとゴールデンのMCになった稀有なケースですよね。 ■ 幸せかなぐり捨ててお笑いやってる 井口 5月は結婚発表ラッシュでもありましたね。東京ホテイソンのショーゴ、ヤーレンズの出井さん、ロッチ中岡さん。ちょうど小宮さんの式もあったんですよ。 みなみかわ 井口はそこでは負けてるわけやん。全員にぶち抜かれてる。 井口 僕は結婚のレースには参加してないんで! 逆に、奥さんや子供がいるからって保守的になっているような奴はぶち抜いてやります。こっちはその幸せをかなぐり捨ててまでお笑いやってるんだから。 飯塚 みなみかわさんは家族がよぎることはあるんですか? これは迷惑がかかるかもしれないからセーブしよう、とか。 みなみかわ トークではないですね。ただ、システマのときに子供が同じようにやられたらキツいなとは思うけれども、だからといってやらないっていう判断はないです。エロ番組も嫁は行け行けって言いますし。 井口 正直、僕は家族の死に目にも会えない気持ちでやれや!と思うんですよ。 みなみかわ お前、それはさすがに非・人間すぎるって(笑)。 井口 それくらいの気持ちでがんばらなきゃってことですよ。そんなのかなぐり捨ててやってる僕に、敵うと思ってるのかよ! ──気になったんですが、かなぐり捨ててるわけではないですよね? 家庭を持つ機会がなかった、というだけで。 みなみかわ 確かに! そこは訂正して? 結婚できなかっただけの話やろ? 井口 いやいや、かなぐり捨ててます。だから、そうやってかなぐり捨ててないと思われるわけじゃないですか。そういう奴もぶち抜いてやりますよ。 みなみかわ だから、ぶち抜くってなんなん?(笑) 今日の井口の話聞いてたらぶち抜き癖があるから、それだけ直していこう。 井口 お笑い界最後の武士としてみなみかわさんも一緒にぶち抜きましょうよ! 正直、僕はもっと言うと若い人たちに期待してたんですよ。新時代を見せてくれるんじゃないかって。そしたら結局YouTubeじゃないですか。新しくもなんともないよ! ──そろそろお時間です。 井口 僕たち、悔しい思いしてきたじゃないですか。その復讐心でぶち抜きましょうよ! ──はい、終わりでーす。 みなみかわ あんまりないですよ、こういう取材で「終わりでーす」って(笑)。 井口 あと、あれも思うんですよ。 みなみかわ え、まだあんの? 井口 「井口はやばいから、まともに働けない人間だ」とか言われるのがムカつくから、就職してやろうかなとかも思うんですよ。僕なんて全バイトで社員にならないかって言われる真面目な人間なんだから働けるに決まってるだろ! みなみかわ ……(笑)。 ■ プロフィール □ 井口浩之(イグチヒロユキ) 1983年5月6日生まれ、岡山県出身。2008年、河本太(コウモトフトシ)とウエストランドを結成。2013年4月に「笑っていいとも!」(フジテレビ)のレギュラーに抜擢され、最終回まで不定期で出演した。2012年から2014年に「THE MANZAI」認定漫才師。「M-1グランプリ」では2020年に初の決勝進出を果たし、2022年に優勝! ラジオ形式の番組「ウエストランドのぶちラジ!」をYouTubeなどで配信中。とろサーモン久保田とのレギュラー番組「耳の穴かっぽじって聞け!」(テレビ朝日)は毎週火曜26:34~。タイタン所属。 □ 飯塚大悟(イイヅカダイゴ) 1982年4月13日生まれ、新潟県出身。テレビ、ラジオの構成作家。現在の担当番組は「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」「家事ヤロウ!!!」(テレビ朝日)、「水曜日のダウンタウン」(TBS)、「ヒルナンデス!」(日本テレビ)、「オドオド×ハラハラ」(フジテレビ)、「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)など。書籍「深解釈 オールナイトニッポン~10人の放送作家から読み解くラジオの今~」(扶桑社)。 □ みなみかわ 1982年9月28日生まれ、大阪府出身。松竹芸能タレントスクール大阪校を経て、コンビ・ピーマンズスタンダードとして活動。ロシアの武術システマを用いた「特別な呼吸法で痛みを無効化する」という芸でテレビ出演を増やす。2019年にコンビ解散後、「ゴッドタン」(テレビ東京)での“腐り芸”が注目を集め、「水曜日のダウンタウン」(TBS)、「さんまのお笑い向上委員会」(フジテレビ)などの人気バラエティで脚光を浴びる。2024年5月に松竹芸能を退所し、6月1日より合同会社ナンセ所属として新たなスタートを切った。