『F-ZERO』2作のSwitch復刻とともに振り返る、開発会社「朱雀」が残した作品たちとその軌跡
10月11日、近未来SFレースゲーム『F-ZERO ファルコン伝説』と『F-ZERO CLIMAX』の2タイトルが『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』の配信タイトルとして追加された。 【画像】Switch復刻された『F-ZERO』2作と開発会社「朱雀」が手掛けたゲームたち 2023年3月28日、ニンテンドー3DSとWii Uのオンラインショップ「ニンテンドーeショップ」のサービス終了で、新規の購入が難しくなっていたこの2作。「Nintendo Switch Online + 追加パック」の加入者に限られるが、今回の配信によって無料で遊べるようになった。しかも、『F-ZERO ファルコン伝説』は、Wii Uバーチャルコンソール版ではカットされた「カードeリーダー+」の追加コンテンツが体験可能な最新版だ。 以前、『F-ZERO ファルコン伝説』のコラム終盤にそのことを書いた(クギを刺した)人間としては、今回、体験可能な最新版を配信してくれたことに心からの感謝を述べたい。オリジナル版当時も、遊ぶハードルが高かった追加コンテンツを気軽に楽しめるようになって感無量です。 『F-ZERO ファルコン伝説』と『F-ZERO CLIMAX』の2作は、いずれもゲームボーイアドバンスのハード性能を活かしきった良作だ。特に『F-ZERO CLIMAX』は、豊富なゲームモードとそのボリュームの大きさから、『F-ZERO』シリーズでも随一と言える作品になっている。 この『F-ZERO』2作を開発したのは、「朱雀(SUZAK)」というゲーム開発会社である。 残念ながら、朱雀は2012年に倒産し、2024年の現在では過去の会社となっている。同社は『F-ZERO』2作のほかにも任天堂とは何度かタッグを組み、ゲームボーイアドバンス、ニンテンドーDS向けにさまざまな作品を世に送り出した。 一部の作品をリアルタイムで体験した人間としては、倒産から十数年が経った現在もなお、「もう少し、ここが作るゲームを遊んでみたかった」との思いがある。 そんな朱雀の軌跡と、手がけたゲームのなかでも特に象徴的とも言えた作品たちを今回の『F-ZERO』2作の復刻を機に振り返ってみたい。 ■朱雀のデビュー作は、NHKのマスコットキャラクター「どーもくん」が主人公のゲームだった 過去、任天堂公式サイトに掲載されていた「Nintendo Online Magazine(N.O.M)2002年3月号(No.44)」の関係者インタビューによれば、朱雀はコンテンツ制作会社として知られる、株式会社TYO(ティー・ワイ・オー)に一時期存在したゲーム事業部を解体・独立させる形で設立。その第1弾となるゲームを任天堂と作りたいとの流れで企画が提出され、一度の見直しを経て制作が決まり、2002年2月21日にゲームボーイアドバンス用ゲームソフトとして発売された。 そのゲームというのが『どーもくんの不思議てれび』。NHK-BS放送開始10周年記念のキャラクターで、2024年現在はNHKのマスコットキャラクターを務める「どーもくん」のゲームだ。 前述のインタビューによれば、もともとTYOはどーもくんの版権をNHKとともに有しており、その流れからゲームが考えられたという。制作にはどーもくんの生みの親で、当時はTYOに所属していた合田経郎氏も、監修およびイベントデモのコンテ、そして一部ゲーム(後述)の企画として参加している。 ゲームの内容は、テレビのなかに吸い込まれてしまったどーもくんが「アンテナのかけら」を回収するため、チャンネルごとに用意されたさまざまな番組に出演し、挑戦していくというもの。番組というのはアクション、スポーツ、レースといったジャンルの異なるゲームを指しており、それにちなんで「番組アクション」なるジャンル名が公式に付けられている。 要は「ミニゲーム集」だが、そのゲームこと番組のひとつひとつが単体の作品としても成立する、ミニゲームとは言えないレベルで作り込まれているのが最大の特徴。それぞれが独自のゲームシステムや操作系を持つと同時に、ボリュームも一定の規模を誇る豪華な内容に仕上げられているのである。 さらにジャンルも多彩。アクションゲームだけでも横スクロールのみならず、縦スクロールのパズル型、小規模な探索型、フィールドに奥行きの概念があるベルトスクロール型まで、豊富なバリエーションが用意されている。ほかにスポーツゲームも野球にゴルフ、相撲なども網羅。果てはどーもくんではなく、その友人であるイタチの「たーちゃん」になって挑む任意横スクロール型シューティングゲームや、リズムゲームまである。 番組のなかには、どーもくん生みの親の合田氏が企画したものも。その名も『鳥の成長』で、どーもくんを操作して野生の天敵にさらされたひな鳥を守り、巣立たせることに挑む感動ドキュメンタリー系アクションゲームだ。ちなみに本編が始まって最初に挑むことになるのが、こちらの番組でもある。 これに加えて難易度も見た目とは裏腹に骨太で、番組によっては瞬発力や戦略的な判断までもが求められてくる。前述のたーちゃんが主人公のシューティングゲーム(その名も『魔女っち たーちゃん』)は最たる一例で、やたら入り組んだパワーアップシステムと、変化に富んだステージといった本気すぎる作りには度肝を抜かれるだろう。 ただ、『どーもコレクション』という番組でアイテムを購入すれば、それに紐づいた番組の難易度を下げられるようにもなっている。購入後もアイテムを使うか否かを選べるので、好みの塩梅で楽しむことが可能だ。 どーもくんのゲームという第一印象からは、低年齢層向けで、難易度もカンタンそうなものがイメージされやすい。だが、実際はコアなゲーム好きでも楽しめるどころか、時にドン引きするほどに骨太で、意外性抜群の傑作に仕上げられている。 おかげで初見プレイ時の衝撃も大きく、興味本位で当時、購入した筆者も「え、手ごわくね……!?」と困惑したほどである。本稿の執筆を機に久しぶりに遊び直したのだが、相変わらずやり応えがすごい。そして、シューティングゲーム『魔女っち たーちゃん』は気合入れすぎである。そもそも、主題歌付き(カラオケ仕様)な時点で「そこまでやるか!」だ。 残念ながら、本作はNHKのコンテンツを原作とする関係でテレビコマーシャルは制作されず、宣伝はWEB、ゲーム雑誌などに限られた。そのため、販売面も静かな結果に終わったが、版権作品という枠を超えすぎた完成度もあって、意外性と衝撃性がともに頭ひとつ抜けた作品に仕上げられていた。 朱雀の手腕は『どーもくんの不思議てれび』で、任天堂側のディレクターを担当した山上仁志氏が前述のインタビューで高く評価しており、後に再びタッグを組む形で『F-ZERO ファルコン伝説』と『F-ZERO CLIMAX』が作られた。 『F-ZERO』2作以降も、ニンテンドーDS向けにワリオが主人公のアクションゲーム『怪盗ワリオ・ザ・セブン』を制作。また、変わり種として、任天堂が運営していた会員制サービス「クラブニンテンドー」の景品として作られたニンテンドーDS用ゲームソフトで、マイク機能&ローカルマルチプレイにフォーカスした『絶叫戦士サケブレイン』なるタイトルも手がけた。 『絶叫戦士サケブレイン』以降は任天堂とタッグを組んだゲームは出ず、同作が事実上、最後の作品となった。なお、2009年にはどーもくんと同じ、NHKのコンテンツを原作とする『NHK紅白クイズ合戦』なるゲームがWiiで発売されているが、こちらは「くるりん」シリーズや『ピクミン3 デラックス』などを手がけたエイティングが制作しており【※】、朱雀は関わっていない。 ※NHK紅白クイズ合戦 | 株式会社エイティング ■任天堂以外のメーカーともタッグを組んでさまざまなゲームを制作。そのなかでも見逃せないものは…… 朱雀は任天堂以外のメーカーとも組んで、ゲームボーイアドバンス、PlayStation 2、ニンテンドーDS向けにゲームを制作している。代表的なところでは『かいけつゾロリ』「プリキュア」シリーズといった絵本、アニメなどを原作にした版権タイトルが挙げられる。また、SUPER CD-ROM2用RPG『天外魔境II 卍MARU』のニンテンドーDSリメイク版の制作も同社が担当している。 いくつかある任天堂以外のメーカーと組んで作られたゲームのなかで、筆者がとても印象に残っているのは、ニンテンドーDSで2007年12月6日、AQインタラクティブ(現:マーベラス)から発売された『ぽろろんっ!ドコモダケDS』。NTTドコモのマスコットキャラクター「ドコモダケ」のゲームだ。 その内容は主人公の「チチドコモダケ」を操作し、お祭りの準備に出かけて帰ってこない家族たちを探す冒険を繰り広げていくというもの。横スクロールのステージクリア型パズルアクションゲームで、行く手を阻む仕掛けを乗り越え、時に敵を撃退しながらゴールを目指す。 パズルアクションゲームとしての作りは、2024年2月にリメイク版が発売された『マリオvs.ドンキーコング』に近い。 ただ、独自要素もあって、そのなかでも異彩を放つのが「分裂&変身」。主人公のチチドコモダケは、タッチペンで身体を直接突くと「ミニドコモダケ」なる小さな個体を生成する。これをタッチペンでつまんで、そのままスライドして運んだり、時には別の姿に変身(変形?)させたりしながら、行く手を阻む障害に対応していくのだ。 ミニドコモダケは最大16体まで生成可能。ただし、チチドコモダケの身体から生成している関係で、作れば作るほどチチドコモダケの身体が小さくなっていき、最終的にはミニドコモダケと同じサイズになる。しかし、小さくなることによって、通常のチチドコモダケの状態では通れない狭い通路を通れるようになるメリットも。逆に重量に応じて反応するリフト、ブロックを押せなくなるといったデメリットもあるため、状況に応じて身体のサイズを調整していくことも試される。 また、ミニドコモダケはステージに設けられた点線の枠にはめ込むと足場になったり、縦に重ねるように並べるとハシゴになって上り下りが可能に。さらにミニドコモダケを直接タッチするとボールに変身。それをチチドコモダケに持たせ、タッチペンで指定の場所をタッチすれば、そこを目がけてボールになったミニドコモダケを投げ飛ばすこともできる。主に敵を撃退する時に活躍するアクションだ(逆にトゲなどに当たったりするとミニドコモダケがやられ、以降、生成可能な最大数が減る)。 少しかいつまんだ紹介になったが、こんな具合に主人公がキノコである特徴を活かしたユニークなシステムと、それを活かした遊びが光るゲームに仕上げられている。操作も十字キー(利き手によってはABXYボタン)とタッチペンを用いるという、朱雀が手がけた『怪盗ワリオ・ザ・セブン』に近いスタイルだが、要求される動作はタッチ、スライドに限られていて簡単。ただ、チチドコモダケを移動させつつ、ミニドコモダケを並行して運ぶなど、ニンテンドーDS特有の並行処理が求められたりもする。 企業のマスコットキャラクターを原作としている点では、『どーもくんの不思議てれび』と共通点を持つ作品でもある。ただ、多彩なジャンルのゲームが遊べた『どーもくんの不思議てれび』に比べると、作品としての規模は小さい。題材的にも、当時のニンテンドーDSブームに乗じて作られた強引さがチラつく一面がある。しかし、肝心の中身は独特な操作スタイルとパズルアクションとしての堅実さが光る良作に仕上がっている。 筆者は本作をたまたま安く売られていたからという、極めて雑な経緯で購入したのだが、いざ遊んでみると非常に遊び甲斐のある内容で、大変な驚きを覚えた。そして、実は本作を作ったのが『どーもくんの不思議てれび』を作った朱雀だと知って、その出来の良さに納得した次第である。 朱雀が手がけた作品のなかでは、特に知名度が低い作品なのは否定しない。しかし、完成度と面白さは申し分ないので、もし、どこかでお目にかかる機会があれば遊んでみていただきたい1本である。「自分、auですが」「ソフトバンクなんです……」と、違うサービスを契約しているという方も気にせずに! 何気にストーリーも心温まる内容で、特に年頃の子供を持つ親御さんなら、終盤の展開には心を揺さぶられるかもしれない。 ■大きな柱となるヒット作が生まれていれば、未来は違っていたのか ほかに朱雀は、ニンテンドーDSiウェア向けに配信された小規模なゲームタイトル群『G.Gシリーズ』、「カードeリーダー+」用のカード制作および収録ミニゲームの制作なども手がけていた。『G.Gシリーズ』に関しては、2010年に独自タイトルも収録した『G.Gシリーズコレクション+』なるパッケージ版も販売している。 総じて完成度の高いゲームを手がけた朱雀だったが、残念ながら2012年をもって倒産。ただ、『G.Gシリーズ』の販売を担うジェンダープライズは残り、2015年には『G.Gシリーズコレクション+』に収録された独自タイトルをDSiウェアでも配信。並行して、ニンテンドー3DS向けの新作の配信も予定していると報道されたことがあった【※】。 ※「G.Gシリーズコレクション+」7月に配信する14タイトルを公開(4Gamer.net) しかし、メディア芸術データベース記載の情報【※】によれば、ジェンダープライズも2016年に活動を終えたようで、ニンテンドー3DS向け『G.Gシリーズ』の新作は幻に消えた(ただし、『G.Gシリーズ』は配信終了とはならず、株式会社グッドビジョンが権利を引き継ぐ形で2023年3月28日まで継続された)。 ※メディア芸術データベース(Genterprise) 朱雀は手がけたゲームの出来こそ優れていたが、柱となるほどのヒット作を出せなかったことが明暗を分けたように思える。それは『どーもくんの不思議てれび』が発売された2002年の同じ時期、奇しくも任天堂とタッグを組んだ初作品を発売したゲーム開発会社「アルファドリーム」の動向と照らし合わせれば分かりやすいだろう。 アルファドリームは『マリオ&ルイージRPG』という、後に続編が制作されるほどのヒット作を手がける実績を残した。対し朱雀は、『F-ZERO』に『ワリオ』という著名作を手がける実績は作れたものの、いずれも小規模なヒットに終わり、シリーズ展開も限定されたのだ。 それを思うと、何か大きなヒット作を出せていれば、違う未来があったのだろうかと考えてしまう。とは言え、事実上の同期と言えたアルファドリームも後年、『マリオ&ルイージRPG』という1本柱に頼りすぎた反動か、2019年をもって倒産してしまったのだが。 ただ、アルファドリームが手がけた『マリオ&ルイージRPG』は、制作体制を一新した『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』が発売されることから、今後も続いていくのだろう。反面、朱雀は過去作の復刻が中心となると同時に、少しずつ健在だった当時を知るプレイヤーの間でしか語られない会社になっていくと思われる。 朱雀が手がけたゲームは本当に光るものがあった。特にデビュー作『どーもくんの不思議てれび』は、遊ぶ手段が限られてしまっている現状がもどかしいと思ってしまうほど、ゲームボーイアドバンスのゲームソフトのなかでも指折りの傑作である。 残念ながら、『どーもくんの不思議てれび』は版権の課題が想定されることから、復刻の可能性は限りなくゼロに近いと思われる。もし、復刻されれば奇跡と言っても過言ではない。それは『ぽろろんっ!ドコモダケDS』に対しても考えられる。 それでも、遊んだ人に強い印象を残すゲームを手がけられた会社があったこと、それに大きな感銘を受けた人間がいた証をここに残したい。 そして、数少ない復刻作品である『F-ZERO ファルコン伝説』と『F-ZERO CLIMAX』が、今後も語り継がれていくことを願ってやまない。
シェループ