マカオ返還から25年、一国二制度「新たな段階」に…習近平主席は強国建設への貢献を要求
【マカオ=鈴木隆弘】マカオは20日、ポルトガルから中国に返還されて25年を迎えた。習近平(シージンピン)国家主席が記念式典で演説し、マカオに適用される一国二制度は「新たな段階に入った」として強国建設への貢献を求めた。マカオは返還後50年は高度な自治を認められているが、その折り返しを迎える中、習政権は中国本土との一体化を加速させている。 【写真】香港と中国広東省、マカオを結ぶ世界最長の海上橋「港珠澳大橋」
習近平主席は「経済建設」に重点
習氏は一国二制度について、あくまでも「一国が原則」とし、「国家の主権、安全、発展の利益が何よりも優先される。中央(政府)の管轄権はいかなる時も揺るがない」と強調した。
習政権が米欧とは異なる独自の発展を目指す「中国式現代化」を推進していることにも触れ、「マカオの一国二制度の実践も新たな段階に入った」として発展への貢献を要求。マカオ政府に経済改革などを求めた。
習氏は、2019年のマカオ返還20年の記念式典の演説では、香港で反政府抗議運動が起きたことを受けて「国家安全」を強調したが、今回は中国の景気減速を受け、「経済建設」に重点を置いた模様だ。
行政長官に初の本土出身者
習氏は演説で「マカオ人によるマカオ統治」に言及したが、20日にマカオ政府トップに就任した岑浩輝(しんこうき)・行政長官は広東省出身で、初めて本土出身の行政長官となった。10月の行政長官選挙で岑氏が唯一の候補者だったのも、習政権の意向があった可能性がある。
マカオ経済はカジノ産業に依存し、コロナ禍で大打撃を受けた。改革の必要性は長年指摘されてきたが、これまでの行政長官は地元財界出身だったことから、「痛みを伴う改革ができなかった」との指摘もある。
習氏は、マカオ終審法院(最高裁)院長を25年間務め、地元財界との縁が薄い岑氏に「経済の適度な多元化」の実現を期待するが、「マカオ人による統治は崩れた」(外交筋)との声も上がる。
本土との融合の象徴、「横琴島」開発
演説で習氏がマカオと本土の融合を図る象徴として挙げたのが、マカオの西隣にある中国広東省珠海の横琴島の開発だ。21年、マカオと広東省が共同開発する区域に格上げされた。開発の余地が限られる狭いマカオの3倍の面積がある横琴島で発展を促したい考えで、島内には昨年秋、マカオ住民のための27棟の高層マンションが完成した。
しかし、住民からは「マカオとの行き来が不便」といった声も上がり、全4000戸のうち売約済みは3割程度にとどまる。科学技術など先端企業の誘致を目指す産業区も人影はまばらだ。マカオ住民の意向を無視した、本土との「融合」ありきの開発が突き進んでいる。