歯学博士照山裕子の100歳まで食べられる歯と口の話

「100歳まで食べられる歯と口の話」＜17＞ 　最近、竹内まりやさんの「プラスティック・ラブ」という曲が再びのマイブームです。1984年に発表された楽曲ですが、小中学生の頃にすでにスターだったアーティストの方々がいまだ変わらず現役で活躍している姿を見る度にとても励まされています。私が担当する患者さんにも歌手の方は多いのですが、歯科医の立場から実感するのは、エネルギーの源が「舌」にあるということです。 　生まれたての赤ちゃんがミルクを飲めるのは、舌と上顎で哺乳瓶の口をつぶす動きが主体です。はた目には唇で吸っているだけのように見えますが、口の中はさまざまな筋肉を総動員して緻密な動きをしているのです。歯が生えないうちから離乳食を摂れるのも、この働きによってつぶし、食塊にして飲み込む力が備わっているからです。 　舌の力が弱ければ上顎に食べ物が残ってしまうことになり、むせたり誤嚥（ごえん）したりということになりかねません。そしてこれは、当然大人にも同じことがいえます。 　口周りには沢山の筋肉があり、それぞれがうまく連動し機能することは大切なのですが、学術的にもっとも信頼度の高い力が「舌圧（舌の力）」とされている理由は、歯の有無にかかわらず食べることができるという驚異のパワーゆえです。歌を生業にしている方々がいつまでも若々しいのというのも納得です。 　舌の強弱はkPa（キロパスカル）という単位で表します。成人では30キロパスカル以上の舌圧が理想的で、不自由なく食事が摂れる目安になります。逆に20キロパスカル未満の場合はとても危険です。成人では口の機能が衰えている「口腔（こうくう）機能低下症」、子どもの場合は口の機能がうまく育っていない「口腔機能発達不全症」という病名がつきます。18歳未満あるいは50歳以上であれば、保険適応で診査や指導が受けられます。一度ぜひお近くの歯科医院で調べてみてください。