”全方位配慮型”すぎてすべてが面倒になる私。自分を肯定できるようになりますか?
文筆家として恋愛やジェンダーに関する書籍・コラムを多数執筆している、恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表の清田隆之さんによる連載。忙しい日々の中、私たちには頭を真っ白にして“虚無”る時間も必要。今抱えている、モヤモヤやイライラも、ちょっと軽くなるかもしれません! 桃山商事 清田の「BOOKセラピー」自分を肯定できるようになる本ほか
「まわりのことや未来のことを考えすぎて、恋愛に踏み出せません…」
【今回の“虚無っちゃった”読者のお悩み…】 恋人が欲しいという気持ちはあるのですが、「うまくいかなかったらどうしよう」「アプローチしたら相手に迷惑かな?」などと考えすぎて、恋愛に踏み出せません。いろいろ考えているうちに面倒になって、結局一人で夜な夜なショート動画を見て虚無っています。 ライター藤本:今回の相談は、「まわりのことや未来のことを考えすぎて、恋愛に踏み出せない」というもの。こんなふうに悩んでいる方の場合は、全方位に配慮しすぎて、疲れてしまっているのかもしれませんね。その結果、一人でいることを選んでいるけれど、恋人が欲しいという気持ちはあるから、モヤモヤしてしまうと…。 清田さん:なるほど…自分も昨夜、オラついた起業家が「使えない人材の特徴」についてオラオラ語るショート動画を延々と見てしまって心が壊れかけました(泣)。まず前提として、このお悩みは「考えすぎ」とか「気にしすぎ」で片づけられる問題ではなく、それだけ全方位に気を遣わざるを得ない圧力がかかっている可能性がある…という視点を持つことが大事じゃないかと思います。かつて恋愛が始まる形と言えば、学校、サークル、バイト先、職場など、恋愛目的ではない場で出会った人と、関係を築いていく中で好意が芽生えて…という形が王道だと考えられていたように思いますが、もしそこで気まずくなったら、居場所を失ってしまうリスクもある。今は、コミュニケーションツールも多様化しているから、グループLINEなどで一瞬にして噂が回ってしまうかもしれない。それに、ハラスメントの認識も浸透してきているだけに、相手にセクハラやパワハラととらえられたら、という不安もある。 エディター種谷:改めて考えてみると、恋愛するリスクって高すぎますね。 清田さん:そういった不安を抱えている人は少なくないように感じます。さらに、虚無ってしまう背景には“ToDo多すぎ”という問題もある。ただでさえ、勉強、仕事、人間関係のマネジメント…と、やるべきことがいっぱいあるから、自分のテンションやコンディションを乱したくない。さらに友人とも対等でいたいから、紹介してもらったりして借りをつくりたくない。努力して「平穏」や「安定」をキープしているという部分があるんだと思います。それもあって、しがらみのないアプリでの出会いが増えているのかも。 ただ、そんな圧力や背景は自覚しにくいから、日々の配慮と自分の問題を一直線に結びつけて、「私って気にしすぎ…?」と、ネガティブにとらえてしまう人も多いと思います。本当は、“社会のせい”という部分も大きいのに。 ライター藤本:昔より今の社会のほうが、恋愛から遠ざかる状況を加速させているところもあるんでしょうか。 清田さん:そんな気がしてならないんですよね…。例えば、仕事の連絡ひとつとってみても、昔は“退社後は電話もFAXもこないもの”だったのに対して、今は24時間いつでもスマホやチャットで受けられてしまう。レスの速度も、“2~3日で返せばOK”だったところが、日をまたいだだけで「返信が遅れてすみません!」となってきていたり。昔と今とでは、時間感覚も大きく変わってきていますよね。このような環境下で生きていたら、そりゃあ全方位に配慮するようになるし、しないと日常が平和に回っていかない。だから「考えすぎ」ではなく、「考えざるを得ないことがたくさんあってキャパシティに余裕がない」というのが実態だと思うんですよね。 今は気を遣うのがデフォルトとされる中、逆に「他人を気にせずガンガン自己主張できる、メンタルの強い人がカッコいい」みたいな風潮もあるけれど、それって裏を返せば人の話を聞いていない、他者を重視していないということでもあるかもしれない(笑)。“配慮”は、このまじめにならざるを得ない世の中をサバイブするために努力によって獲得してきた能力とも言えるわけで、その尊さを自分自身で認めてあげてほしいな、と思います。 今回のような悩みを抱えている“全方位配慮型”の方は、すでに面倒くさいことをたくさんしているわけで、脳内は案外忙しくて刺激的な状態かもしれない。そんな人が面白くないわけないですよね。その分気にかけてしまうことが多いのだと思いますが、それでも気になる人や好きな人ができてしまった場合は、勇気を持って一歩踏み出してみるしかない。心のベストテン第一位の朝ドラ『あまちゃん』にも、「その火を飛び越して来い!」という名ゼリフがありました(笑)。そのときのために、おすすめ本を読んで、自分の感情や欲望を見逃さずに拾い上げて、それを言動につなげるトレーニングをするといいかもしれないなって思います。 文筆家 清田隆之 1980年生まれ、早稲田大学第一文学部卒。文筆家、恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表。これまで1200人以上の恋バナに耳を傾け、恋愛やジェンダーに関する書籍・コラムを執筆。著書に、『おしゃべりから始める私たちのジェンダー入門―暮らしとメディアのモヤモヤ「言語化」通信』(朝日出版社)、『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』(双葉文庫)など。 取材・文/藤本幸授美 イラスト/藤原琴美 構成/種谷美波(yoi)