東電の経営幹部はなぜ津波対策に失敗したのか?「現状維持バイアス」「集団思考」「アンカリング」…他人事ではない心理に潜む「歪み」
ギャンブラーの誤謬~同じことが再び起きる確率は低いと思ってしまう心の罠
「ギャンブラーの誤謬」と呼ばれるバイアスも見られる。 山下地震対策センター所長は、検事の取り調べに対し、福島第一原発で想定を上回る津波が実際に発生することはないと思った理由について「そう思う根拠は特にない」と供述したのに続けて、2007年に発生し、柏崎刈羽原子力発電所(KK)に被害をもたらした新潟県中越沖地震の経験を振り返って次のように述べた。 「平成19年に、KKで想定を上回る地震動を観測した中越沖地震を経験しており、そう何度も想定を上回る事象が生じることはないだろうと思い込んでいました」 柏崎刈羽原発が想定を超える地震で被害を受けたとしても、福島第一原発が想定を超える津波に見舞われる確率は増えもしないし、減りもしない。にもかかわらず、山下地震対策センター所長は、この確率が大幅に減ると思い込んでいたというのだ。これは「ギャンブラーの誤謬」そのものだ。 サイコロを振って1が出た次に1が連続して出る確率は6分の1であり、その1の次に4が出る確率と同じだが、人は、どうしても、1が連続して出る確率を低く見積もりがちとなる。これが「ギャンブラーの誤謬」と呼ばれるバイアスであり、人の判断を誤らせる。
現状維持バイアス~従来想定への固執
武藤元副社長の陳述には、「現状維持バイアス」、「確証バイアス」らしき言葉がしばしば登場する。 「これまでの津波評価のやり方でもって、普通に考えて安全だと社会通念的に見て安全だという水準は維持できているんだ、というのが全ての前提なわけで、で、それがだから運転してたわけなんで、で、それが何か崩れるような、何か新しい知見があったのかということを私は何度も確認した。だけどそれはないんですということだった」 従来想定へのこだわりは、バイアスというよりも、信念に近いものだったのかもしれない。 このほかにも、東電の幹部の言葉からは「総意誤認効果」「集団思考」「認知的不協和」「専門外忌避バイアス」といった認知の歪みを示す証左が次々と出てくる。スローニュースではより詳しい記事を配信している。
奥山俊宏