史上もっとも後味の悪い日本映画は? 鑑賞注意の鬱邦画(5)閉塞感が半端ない…背筋が凍る呪いの言葉とは?
なぜ人は悲劇を愛するのか。この問いに、哲学者アウグスティヌスは『告白』で次のように答えている。「人は誰でもみな、自分では不幸になりたくないが、他人に憐みをかけることは喜ぶ。(…)そのために悲しみを愛するのだ」―。今回は私たちの憐みを引き出す「鬱な日本映画」をセレクト。比較的近年の作品を中心に紹介する。※この記事では物語の結末に触れています。第5回。(文:村松健太郎)
『ヴィレッジ』(2023年)
監督:藤井道人 脚本:藤井道人 出演:横浜流星、黒木華、一ノ瀬ワタル、奥平大兼、作間龍斗、淵上泰史、戸田昌宏、矢島健一、杉本哲太、西田尚美、木野花、中村獅童、古田新太 【作品内容】 夜霧が幻想的な霞門村。この村に暮らす片山優(横浜流星)は、父が犯した殺人を周囲に疎まれながら、母の君枝(西田尚美)の借金返済のために、ごみ最終処分場で働いていた。 そんな中、優の幼馴染の美咲(黒木華)が東京から戻り、ゴミ処理場で広報として働く事となる。優を気づかう美咲。この日から、彼の人生が変わり始める―。 【注目ポイント】 2025年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で、主人公の蔦屋重三郎を演じることが発表された若手最大の注目株、横浜流星。そんな彼が「犯罪者の息子」を演じた作品が、この『ヴィレッジ』だ。 監督は、『新聞記者』(2019)、『ヤクザと家族 The Family』(2021)で知られる藤井道人。キャストには、黒木華、奥平大兼、一ノ瀬ワタル、古田新太、中村獅童ら、実力派が名を連ねている。 タイトルにもある通り、本作の真の主役は片山ではなく、閉鎖的な空気感に包まれている「村」だ。閉塞感を具現化したような地方の寒村の雰囲気は見ているだけで息が詰まってくる。 そんな村に、犯罪者の息子として生まれ育った片山。しかし、彼の希望は、村という巨大な闇にあっという間に飲み込まれていく。逃れようとしても逃れられない―。そんな呪縛に対して片山は、「なくなればいい」と呪詛の言葉を吐くしかないのだ。 なお、本作は、『新聞記者』などの多くの社会派作品を企画したプロデューサー河村光庸の遺作でもある。2022年に心不全のため72歳で亡くなった河村。その早すぎる死があまりにも惜しい。 (文・村松健太郎)
村松健太郎