準々決勝 明石商、来たぞ4強 喜び一直線(その1) /兵庫
<センバツ2019> 第91回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高野連主催)第9日の31日、3年ぶり2回目出場の明石商は準々決勝で智弁和歌山と対戦。試合途中からナイターとなった中、来田涼斗中堅手(2年)のこの日2本目となるサヨナラソロで、春夏通算3回の優勝を誇る強豪を4-3で降し、初の4強入りを決めた。中森俊介投手(2年)は制球に苦しみつつも完投勝利。悲願の「頂点」にまた一歩近づく劇的な勝利に、1塁側アルプススタンドの応援団は狂喜乱舞した。 【熱闘センバツ全31試合の写真特集】 準決勝は休養日をはさんで2日に行われ、明石商は午後1時半開始予定の第2試合に登場。春5回目の単独最多優勝を目指す東邦(愛知)と対戦する。【黒詰拓也、望月靖祥、田畠広景】 ……………………………………………………………………………………………………… 智弁和歌山 100020000=3 210000001=4 明石商 「スーパー2年生コンビ」がチームを勝利に導いた。九回裏、先頭で打席に入った来田選手が2ボール2ストライクからの5球目を振り抜くと、打球はぐんぐんと伸びて右翼スタンドに飛び込んだ。来田選手がベースを回る中、スタンドの応援団やファンは悲鳴のような歓声を上げ、抱き合って喜んだ。 一回にも右越えソロを放った来田選手。これで「本塁打3本」という出場前の個人目標の達成まで、あと1本と迫った。頼もしい息子の姿に、父年正さん(49)は「夢みたい。最高です」と叫んでバンザイを繰り返した。試合後、主将の重宮涼三塁手(3年)も「ああいうやつがプロに行くんだろうな」と舌を巻いた。 投げては2年の中森投手が8四球と苦しみながらも3失点で完投。時折雨が降る中で足場を気にする場面も見られたが、何度も訪れたピンチを冷静に乗り切った。試合後、中森投手は「バックの先輩や仲間を信じて、しっかりと腕を振れた」と振り返った。 中森投手は一回に押し出し四球で失点。いきなり追いかける展開となったが、ベンチはあわてなかった。すぐに来田選手の一発で追いつくと、水上桂捕手(3年)の二塁打とバント、安藤碧右翼手(3年)の内野ゴロで勝ち越しに成功。二回には来田選手の犠飛で3点目を挙げた。 五回に同点に追いつかれたが、選手に焦りは見られない。重宮主将の父秀人さん(45)は「粘り強く、何とか点を取ってほしい」と祈るようにつぶやき、懸命にメガホンを振った。 そして迎えた最終回。「おまえで決めてこい」とベンチから声を掛けられて打席に立った来田選手が、期待に応えて試合を決めた。これで目標の「頂点」まで、あと2勝。試合ごとに成長して強さを増すナインの姿を見つめながら、応援団長の山口翔大選手(3年)は「次も明商野球を貫いてほしい」と静かに語った。 ◇得点で一発芸 ○…明石商側アルプススタンドでは、チームが得点するたびにブラスバンドが「笑点」のテーマ曲を軽快に演奏し、指名された野球部員が即興で一発芸を披露するのが伝統だ。13点を挙げた前日の2回戦に続き、この日も前半から得点を重ね、部員たちは大忙し。一回の2点目でお笑い芸人のものまねをした嶋谷蒼選手(2年)は「ネタに困るほど打ってほしい」と語った。 ◇あす対戦、東邦(愛知) 打率・得点、出場校トップ 1923年に東邦商として創立され、48年から現校名。校訓は「真面目」。野球部は30年に創部された。甲子園には春夏通算47回の出場。春は30回目の出場で、優勝4回は中京大中京(愛知)と並ぶ歴代最多タイ記録。夏は準優勝が1回。今年のチームは打撃が看板で、昨秋公式戦のチーム打率3割8分6厘、1試合平均9.47得点はともに出場校中トップ。OBに中日の藤嶋健人投手、元巨人の山倉和博さん、俳優の奥田瑛二さんら。 ……………………………………………………………………………………………………… ■熱球 ◇選球眼の良さ光る 清水良二塁手(3年) 同点の九回表1死一、二塁。二塁を守る自分にゴロが飛んできた。「二塁に投げれば併殺は取れない」。打球のバウンドを見極めて捕球直後に一塁走者にタッチし、一塁へ送球。うまく併殺を成功させ、直後の来田選手のサヨナラ本塁打につなげた。 1年春からベンチに入った。試合に出られる日も近いように感じられたが、その秋に右肩を痛め、半年ほど球を投げられない日が続いた。打撃マシンのセットや球拾いに徹する一方、帰宅後に走り込んで体幹を強化。みんなと練習できない悔しさが復帰後の原動力となった。 「もともと能力が高い」と狭間監督らスタッフから評価されており、昨夏の甲子園でもベンチ入りした。昨秋の県大会終了後には、フォームを修正したことで打撃の調子も上がり、堅実な攻守でチームの近畿大会準優勝に貢献した。 今大会は選球眼の良さが光る。一、二回戦で計6四死球を選び、スタッフから「目立たぬ立役者」とたたえられた。この日も三回に四球で出塁し、六回には甘いスライダーを捉えて左中間に二塁打。「準決勝でも8番打者らしく、ねばっこくいきたい」。チームが優勝するまで、背番号3は陰で支え続ける。【黒詰拓也】 〔神戸版〕