齋藤飛鳥だから可能としたアイの実写化。完全無欠アイドルへ憑依したドラマ『【推しの子】』
ドラマ『【推しの子】』の第1~6話が11月28日21時よりPrime Videoにてにプライム会員向けに世界独占配信配信となった。 【写真を見る】『【推しの子】』でアイを演じる齋藤飛鳥 原作は、赤坂アカ氏と横槍メンゴ氏の共同名義で2020年に「週刊ヤングジャンプ」で連載がスタートした同名漫画。伝説的なアイドルだった星野アイの"推しの子"として2人の双子が転生し誕生するファンタジックな設定、誰がアイを陥れたかというサスペンス要素、芸能界という独特な世界をリアルに描く複合的なストーリーが幅広い層に支持され、コミックは累計2000万部を売り上げた。すると、アニメ化も実現され、第2期まで放送されて10月の最終回時には大きな話題を呼んだ。 そんな話題作が実写化するとあって、発表当初から大きな注目を集めていたのがアイを演じる齋藤飛鳥だろう。 齋藤飛鳥といえば、国民的アイドル・乃木坂46の元メンバーで、2022年に卒業するまで表題曲6曲でセンターを務めるなど、押しも押されもせぬ人気メンバーだった。 乃木坂46を卒業後は女優として活躍。「いちばんすきな花」や「マイホームヒーロー」などに出演しており、10月クールでは話題作となっている「ライオンの隠れ家」でも魅力的な牧村美央役を演じている。 申し分ない演技力を持つことをすでに証明済みだった齋藤。元アイドルの女優がアイドル役を演じるということで違和感なくドラマ『【推しの子】』の配役を受け入れた視聴者は多いだろう。 ただ、個人的には齋藤がアイのような生粋のアイドルを演じることはひとつの挑戦だったようにも感じる。齋藤は乃木坂46を支えてきたエースであることに変わりないが、本人は控えめで物事を一歩も二歩も引いて見るようなタイプ。過去に放送された「情熱大陸」や「アナザースカイ」などのドキュメンタリーにおいても、常に謙虚でありながら自然体で、アイドル然とすることを自ら選んでいないようにも見えた。もちろん、ライブパフォーマンスとなれば笑顔も振りまくが、それで彼女を典型的なアイドルと捉えるのは少々無理があるはずだ。 だが、齋藤演じるアイには一切の違和感を抱かないどころか、原作に勝るとも劣らない魅力が確かにあった。 冒頭のライブシーンは彼女の本業に近いが、常にニコニコしながら、「みんな愛してるよー」と愛情を振りまく姿は乃木坂46時代の齋藤飛鳥ではなく、完全にアイと重なる。また、アイドルでありながら、2児の母でもあるのがアイというキャラクターの独自性でもあり、難しさ。しかし、齋藤が2人に向ける目線や瞳を見ていると母としての愛情を確かに感じることができ、アイの二面性を巧みに表現している。下手をすれば歳の離れた弟、妹にも見えかねないだけに、齋藤の表現力なくしてアイの実写化は不可能だったはずだ。 そんなアイは念願だったドーム公演当日、自宅に押しかけてきたストーカーに刃物で刺されてしまう。男はアイのファンで子供のことを知った逆恨みで凶行に及ぶが、アイは死ぬ直前までアイでい続けるから美しい。「私にとって、嘘は愛。私なりのやり方でみんなに愛を伝えてきたつもりだよ」と微笑みかけるアイは男の名前も握手会でのエピソードも覚えていた。 原作屈指の名シーンにおいて齋藤は死の生々しさを加えている。途切れ途切れに喋る言葉、乾いた唇、滲む汗など漫画やアニメだけでは表しきれない死の淵に立つ人間を表現。そんな彼女が愛する子供たちに向け、瞳にわずかな希望の光を灯しながら「愛してる」とつぶやく。その刹那、「やっと言えた」と目からキラリと水滴をこぼす様は涙なしには見られない。 ライブなどの"陽のシーン"と、死ぬ間際の"陰のシーン"が序盤から交互に訪れるようなアイは決して簡単な役どころではない。『【推しの子】』は齋藤飛鳥の類まれな表現力に支えられているといえるだろう。 文=まっつ
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