“プライベートな問題”のせいで「仕事のミス」を連発する30代の男性が、会社の業務指示を「拒絶」したまさかの理由
労務相談やハラスメント対応を主力業務として扱っている社労士である私が、労務顧問として社労士として企業の皆様から受ける相談は多岐にわたります。 【マンガ】5200万円を相続した家族が青ざめた…税務署からの突然の“お知らせ” 経済や社会情勢の変化によって労働問題やハラスメントの捉え方も変わり、「明らかにアウト」「明らかにセーフ」といった線が引きにくい時代になりました。 社労士としてグレーゾーンの問題を取り扱ってきた経験では、こうした問題に対処するには労働法だけではなく、マネジメントや人事制度など幅広い知識が必要になります。 あるメーカーで勤務していたAさん(30代・男性)は、家庭内のある事件がきっかけでメンタルヘルス失調を起こし、それを認められずに勤務していました。周囲も声かけをためらっているうちに、睡眠不足から労災事故を起こしてしまうことになりました。 普段は几帳面で、仕事ぶりも真面目なAさんの異変に気が付いたのは、同じ部署で働く先輩のBさんでした。業務上のミスが重なり、プライベートな部分で問題を抱えているかもしれないと感じたBさんは上司である研究室室長に相談。 Aさんもミスを素直に認め、防止策の改善案を提出することで一旦は落ち着きましが、仕事の能率が下がり、明らかに体調の悪い様子でした。 一体、どうしてAさんは自身の不調を会社に相談できなかったのでしょうか。また、Aさんに対し、会社はどのように対処するべきだったのでしょうか。 今回は相談事例の中から、「どうしたらこの事故が防げたのか」「どのように対応すべきだったのか」という観点で事例を見ていきたいと思います。
「自分は病気ではありません」
私はこの時点で会社から相談を受け、室長の初動対応を伺いました。室長の対応は適切だったものの、業務にも支障が出ている状況になっているため、今度は安全配慮義務の観点から健康診断の受診を求めることにしました。 診断結果によっては長期の休職の可能性もあり、Aさんが担当している研究を引き継ぐ必要もあったからです。 しかし、業務指示として医師の診断を受けるように求めても、Aさんはこれを「自分は病気ではありません」と拒否しました。 病気ではないなら受診してもいいのでは、と室長が水を向けてもAさんは仕事が遅れていることを理由に断ってきました。Aさんは、なぜか病院に行くことを頑なに嫌がったのです。 そして、その数日後。出勤途中でAさんはめまいを起こし、交通事故を起こしました。不幸中の幸いで対人事故ではなく駐車場のフェンスに激突しただけでしたが、Aさんは胸を強く打って救急搬送され、そのまま2か月ほどの入院を余儀なくされました。 その入院中、Aさんが軽度のうつ病を発症していることが分かります。Aさんは退院後すぐに復職することを希望していましたが、診断書を見る限りでは休職しての加療が必要な状況でした。 見舞いに訪れた室長も、現在のAさんの状況では十分な労務提供ができない可能性が高いとして休職をすすめました。 Aさんは抗ったものの、キャリアに影響はでないこと、以前も病気休職から元の職場に復帰した例があることを根気よく室長が伝えたことで、最終的には受け入れました。 業務命令での休職発令も検討していただけに、本人が受け入れてくれたことは関係者全員がほっとしたことでした。