幕末・維新150年「なにわの歴史舞台を歩く」
西長堀に漂う濃厚なる土佐藩の気配
大阪市西区西長堀の市立中央図書館西隣にある土佐公園。いつも子どもたちの歓声が絶えず、しばし仕事を忘れてくつろぐ大人も少なくない。 公園の北側に土佐稲荷神社がある。ご当地一帯にはかつて土佐藩の蔵屋敷が広がっていた。同神社は蔵屋敷の守護神だった。桜の季節には町人にも開放され、花見客でにぎわったという。土佐公園内の花見は往時の名残を留めている。 坂本龍馬、後藤象二郎、中岡慎太郎、岩崎弥太郎、板垣退助。土佐藩は幕末維新の激動期に、多くの逸材を動乱の渦の中に投げ込んだ。 昭和になって、土佐の逸材に熱いまなざしを向ける人物がいた。作家の司馬遼太郎だ。司馬は同神社に隣接する集合住宅に暮らしていた1960年、直木賞を受賞した。 集合住宅も土佐藩の蔵屋敷跡のスペースに建てられている。まもなく司馬は坂本を主人公に代表作「竜馬がゆく」の執筆に打ち込む。西長堀に漂う濃厚なる土佐の気配が、多くの人々を勇気付ける名作に、一層の力を与えたのではないだろうか。
武士名鑑が人気だった「大坂町奉行所」
幕府側の拠点のひとつが、大坂町奉行所。大阪市中央区のマイドームおおさか前に、西町奉行所跡の石碑が建っている。 幕府直轄地の大坂では、幕府から派遣される高級官僚の町奉行が警察、司法、行政の任に当たっていた。警察本部長、裁判長、知事を兼務するような権力者だ。実際に奉行所の実務をこなすのは、地元採用で世襲制の与力や同心たちだった。 奉行所の周囲には、裁判に出廷する人たちが宿泊する宿屋が建ち並んでいた。村役人たちのような常連客に、顧客サービスの一環として、奉行所役人の情報を網羅した武士名鑑を無料配布する宿屋もあった。 武士名鑑専門の出版社が取材活動を展開し、人事異動が発令されるとすばやく情報をキャッチして最新版を刊行したという。担当役人の情報を集め、少しでも裁判や交渉事を有利に進めたい。情報戦で勝つ。昔も今も変わらぬ市民感覚だろう。 鳥羽・伏見の戦いで幕府軍の足並みが乱れ、大坂城は炎上。天下の巨城が炎に包まれる情景に直面した大坂の庶民たちは、江戸っ子たちよりも早く、徳川の世が終わったことを理解したという。西郷隆盛の実像に迫るNHK大河ドラマ「西郷どん」でも、大坂が度々登場してくることだろう。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)