U-23日本代表は「計算されたチーム」。五輪も期待? 短期決戦に適している理由【西部の目/U-23アジアカップ】
U-23日本代表は現地時間29日、AFC U-23アジアカップカタール2024の準決勝でU-23イラク代表と対戦し、2-0で勝利。この結果、8大会連続12回目となるオリンピック(五輪)本戦出場を決めている。なぜ、危なげなく勝利することができたのか。(文:西部謙司) 【動画】U-23日本代表対U-23イラク代表 ハイライト
●不発だったU-23イラクのロングボール作戦 パリ五輪行きをかけた準決勝、U-23日本代表は2-0できっちりと勝利した。 序盤の焦点はU-23イラク代表のロングボール。188㎝のサリム・アフメド・アルバンダルをトップに起用し、そこへのロングパスを狙ってきた。イラク代表がアジアカップで日本代表を倒したときのやり方である。 10分程度は蹴り合いになるかと思ったが、3分を経過したところで展開は落ち着いた。U-23日本代表が余裕を持ってビルドアップを開始している。 U-23イラク代表の作戦が不発に終わったのは、木村誠二と高井幸大のCBコンビがアルバンダルにほぼ何もさせなかったこともあるが、それ以上にU-23イラク代表のプレッシングが不十分だった。長身FWへのロングパスという攻撃は、そのFWが直接シュートするわけではなく、こぼれ球を拾えるかどうかが成否を分ける。相手に拾われても素早くプレスして高い位置で奪い返す、相手のビルドアップを機能不全にさせるという狙いもある。相手の混乱とミスを狙った攻め込みだ。 ところが、U-23日本代表は全く混乱しなかった。ロングボールはあってもサポートもプレッシングもないため、こぼれ球を拾って楽々と攻め返すことができた。ロングボールは蹴るけれどもリトリートして守るという相手の中途半端な戦い方に動揺することはなかった。 ●早々に崩れたイラクのプラン 10分に最初の決定機。藤田譲瑠チマからライン間の荒木遼太郎へ、さらにDF間の細谷真大へつないでシュート。U-23イラクの5-4-1での守備ブロックは隙間だらけである。 11分、左サイドからアリ・ジャシムがカットインしてシュート。ジャシムのカットインはこの試合の最後まで脅威だったが、U-23イラク代表の攻撃で恐いのはほぼこれだけでもあった。 U-23日本代表は左サイドの平河悠が鋭いドリブルで再三チャンスを作った後、中央を急襲して先制点をあげる。藤田からディフェンスラインの裏へ落す正確なパス、受けた細谷が慌てて戻るDFを小さいターンで外してすかさずシュート。ゴール右隅へ流し込んだ。藤田の顔が上がる瞬間、細谷はターンしながらDFの間をすり抜け、そこへ注文どおりのボールが来ていた。ゴール前でDFを外した反転の幅は最小限で、シュートのタイミングも早かった。 33分には早々に負傷していたアルバンダルが交代。代わったファディルは身長180㎝で高さが武器のFWではなく、U-23イラク戦のプランはあっさりと崩れ去った。 42分、U-23日本代表に2点目。左サイドでキープした大畑歩夢がボールを失いかけながら素早く体を入れて反転し、2人を置き去りにして中央へパス。ペナルティーエリアの外で受けた藤田はワンタッチで裏へ。荒木の飛び出しにピタリと合った。荒木は冷静にGKの横を抜くシュートを決める。 大畑の粘り、荒木をとばして藤田へ出したパスも良い判断だった。藤田は持ち味の丁寧なワンタッチパスを送り、荒木の得点センスも見事。完全に崩し切っていた。 後半もU-23日本代表の攻勢が続く。後半開始直後にジャシムの際どいクロスボールがあったものの、その後は松木玖生、山田楓喜が惜しいシュートを連発。ただ、一時的に攻め疲れたのか、その後は相手にボールを持たれ始める。 ●日本は計算されたチーム 55分にはファディルのヘディングシュート。GK小久保玲央ブライアンの守備範囲に飛んでくれたので助かった。 U-23イラク代表は60分の交代から4-4-2にシステムを変更。攻勢をかけてくるが、U-23日本代表もカウンターからチャンスを作る。平河の突破からの折り返しを細谷がヘディングで狙ったがポストに当たる。 29分、U-23イラク代表に最大のチャンス。ロングパスで抜け出したワティネのプルバックを交代出場のクルーリがシュートしたが高井が辛くもブロックした。難をしのいでからは藤田のゲームコントロールと荒木の展開力で隙のない試合運びを見せ、そのまま2-0で終わらせた。 U-23日本代表はこの大会を勝ち抜くのに適したチームだった。 編成方針はA代表と似ていて、ハードワークできない選手がいない。個人的なミス以外に守備に綻びが生じにくかった。突出した存在がないかわりに、高いレベルの集団で誰がプレーしても水準を維持できるし、戦術も変えなくていい。これは過密日程を戦ううえでは大きなアドバンテージになった。 攻撃はやや単調だったが、山田と山本理仁の速くて正確なキックがあるので、セットプレーで得点できる。流れの中でもクロスボールからセットプレーに似た形で攻められる。平河の突破力も強力な武器だった。アタッキングサードでの荒木のテクニック、藤尾翔太の引きずるように侵入していく右サイドのドリブル、松木のミドルやスペースへの飛び出しなどもあり、細谷のゴール前での動きとシュート力も発揮されていた。 いずれも個人技とその組み合わせだが、短期間でほぼ2チームを用意しなければならない状況を考えれば十分な手数だろう。全体にこの大会を勝ち抜くためによく計算されたチームであり、さほど危なげなく決勝へ進むことができた。 (文:西部謙司)
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