華美な返礼品で税収減の世田谷区「テーマ型ふるさと納税」は対抗策になるか
野ざらしになっていた旧玉電車両を観光資源に
1990(平成2)年にオープンした宮坂区民センターは、東急世田谷線の宮の坂駅前に立地しています。そうした立地上の特性もあり、センターの建設計画時に「旧玉電の車両を展示したい」というリクエストが地域住民から寄せられました。 現在、三軒茶屋駅―下高井戸駅を結んでいる東急電鉄世田谷線は、かつては玉川電気鉄道(玉電)という路面電車でした。そうした歴史を踏まえ、世田谷区は旧玉電車両を貴重な歴史資料であると判断。車両の保存展示を決めたのです。 ところが、せっかく引き取った展示車両は2008年に塗装工事をしたまま放置されていました。展示車両には雨除けの屋根はなく、野ざらしにされていました。そのため、車体のあちこちの塗装が剥がれ、サビが発生。車両の劣化が激しくなっていたのです。 「世田谷区は、区内を歩いて巡る“まちなか観光”という取り組みに力を入れていますが、区内には大きな目玉になる観光資源がありません。そうした中、地域の資源でもある宮の坂駅前に保存されている旧玉電の車両も観光資源として活用しようという機運が出てきたのです。今回のテーマ型のふるさと納税のメニューを考える上で、旧玉電(世田谷線)は全国的にもファンが多いと考え、新たにメニューとして追加しました」(同)。
豪華な返礼品に異を唱えてきた
ふるさと納税で集めた資金は塗装費用に使われるほか、写真展やイベント開催費用といった沿線活性化に充てられます。寄付者に対して、世田谷区はたまでん羊羹や非売品のジグソーパズルなどを返礼品として用意するほか、車両に名前の掲示をしたり、世田谷線のイベントに招待するとしています。これらは、特に豪華な返礼品ではありません。 あくまでも「『豪華な返礼品で、ふるさと納税を増やす』という行為に異を唱えてきた立場から、自分たちも豪華な返礼品をつけない」という世田谷区のスタンスを貫いています。 返礼品に頼らないふるさと納税の新潮流は、東京の自治体に限った話ではありません。ほかの道府県・市町村でも、そうした新たな取り組みが始められています。 ふるさと納税は、日本に寄付文化を根づかせるきっかけになったとも指摘されます。本来の趣旨でありながら、新潮流と形容されるテーマ型ふるさと納税。今後は、どのような広がりを見せるのでしょうか? 小川裕夫=フリーランスライター