【処理水海洋放出1年】水産事業者支援強化へ 首相、福島県いわき市を視察し表明 漁業経営助成を継続
東京電力福島第1原発処理水の海洋放出の開始から24日で1年となった。岸田文雄首相は、福島県いわき市を視察し、水産事業者の支援を強化する考えを示した。中国による日本産水産物禁輸で影響を受ける事業者への追加対策を実施する他、漁業経営を向上させる助成制度「がんばる漁業復興支援事業」を継続すると説明。温暖化による魚種の変化に伴い、漁船改良など対応策にも取り組む。さらに漁村活性化のための新制度を創設する方針だ。 首相は報道陣の取材に対し、中国の日本産水産物の禁輸措置について「科学的根拠に基づかず、極めて遺憾だ」と改めて批判。即時撤廃を求め、科学に基づく専門家同士の対話を継続するとした。 一方、処理水の放出前に中国に輸出していた水産物の約半分は代替販路を確保できたと明らかにした。ただし「完全に置き換わるには至っていない」と述べ、今月内に開く関係閣僚会議で協議し、秋に策定する経済対策に盛り込む追加支援策の方向性を打ち出すとした。
がんばる漁業復興支援事業の継続については、県漁連の野崎哲会長が首相に要請した。2023(令和5)年の県内の沿岸漁業水揚げ量は6530トンで、震災と原発事故発生前の2010(平成22)年の25%にとどまっているためだ。最新の漁船を導入し、漁獲量をさらに上向かせたい狙いがある。 野崎会長は処理水の海洋放出に反対の立場を改めて強調した上で、一つの作業の失敗が新たな風評を生む懸念も伝え、「1回ごとに緊張感を持って注意してやらなければならない」と訴えた。 東電はこの1年間で約6万2千トンの処理水を海洋放出した。原発周辺の海水に含まれている放射性物質トリチウム濃度は国や東電の基準値を下回っており、首相は安全性に問題はないとの認識を示し、「漁業者が安心してなりわいを継続できるよう、数十年の長期にわたろうとも全責任を持って対応する」と明言した。