中村勘三郎さん晴れ男の威力は今も 開催危ぶまれた硫黄島公演で長男勘九郎は「見守ってくれた」
＜ニッカンスポーツ・コム／芸能番記者コラム＞ 中村勘九郎、中村七之助らが出演する鹿児島県三島村・硫黄島での「俊寛」公演を取材した。源平の時代に政争に敗れた俊寛が流されたとされる硫黄島での「俊寛」上演は3回目。初演の96年、再演の11年は、2人の父で18代目中村勘三郎さんが俊寛を演じた。浜や海など自然環境を最大限に使う公演で、再々演の今回は勘九郎が初役でつとめるということで、チケットも5分で完売したという。 ただ、直前まで天候で開催が危ぶまれた。当初、勘九郎ら一行は公演前日に硫黄島入りし、稽古、ゲネプロ、最終チェックなどを行う予定だった。しかしフェリーが欠航になり、鹿児島市内のバレエスクールを借りて稽古を行って、島入りに備えた。勘九郎、七之助ともに「とにかく無事で上演できれば」と口をそろえていた。 本番当日の朝も雨だったが、鹿児島港からのフェリーは無事に出航し、上演5時間半前に島に到着できた。出演者たちは俊寛堂という俊寛の居住地跡に建てられた庵をお参りすると、そのまま稽古、本番へと突入した。 夕方、雲間から青空も見え少しホッとした気持ちもあったが、3日前から島で準備をしていた関係者は「すぐに天気が崩れるからまだ油断できない」と慎重だった。 午後7時の開演前、照明が暗くなった時、空を見上げて驚いた。一面の星空だった。約90分の演目中、雨が降ることも、風が強まることもなかった。公演はすばらしく、勘九郎演じる俊寛が船を見送りながら「おーい、おーい」と叫ぶ声がいつまでも耳の奥に残った。 カーテンコールで勘九郎は「今日できたことは奇跡でございます。でも、父のことをずっと見てくれてたお客さまは分かると思いますが、父の時はずっとそうなんです。直前まで雨が降ったりして、その時だけ晴れる。見守ってくれたと思います」と勘三郎さんをしのんだ。 勘三郎さんは、大事な公演、イベントの時は必ず晴れる、晴れ男で知られた。亡くなった後も、晴れ男の威力は続いた。13年の一周忌メモリアルイベントは前日までの台風がうそのような天気になり、16年の孫七緒八君（現勘太郎）哲之君（現長三郎）のお練りでは、雨予報が覆った。当時も勘九郎が「父がこの天気をつくってくれた。さすが孫パワー」と喜んだのを覚えている。 今回、気をもみつつ、開催できると皆が信じていたような雰囲気もあった。 中村屋にまつわるジンクスはまだある。大事な時には、先代がハエになって見守ってくれるというものだ。勘九郎、七之助の祖父17代目勘三郎さんが亡くなった後、ハエが現れ、18代目が亡くなった後は2匹になったとか。硫黄島に到着した時、ある関係者は「鹿児島市内にいる時から、ずっと近くをハエが飛んでいるんで大丈夫だと思ってました」と話してくれた。 無事終了した夜遅くには激しく雨が降った。またしても勘三郎さんの存在を感じる公演となった。【小林千穂】
