【詳細解説】自動車評論家の大谷達也が内燃エンジンのRS6アバントとBEVのSQ8スポーツバックe-tronに試乗して、アウディ・クワトロの走りを改めて分析した!
最速ワゴン、RS6は迫力満点!
アウディが力を入れる電動モデルの最新作SQ8 e-tronと走りを象徴する内燃機関の旗艦モデル、RS6アバントを連れ出して、アウディが持つドライビングの魅力をモータージャーナリスト大谷達也が考えた。 【写真23枚】最新モデルのRS6アバントとSQ8 e-tron アウディならではの洗練された内外装のデザインと巨大なブリスターフェンダーの迫力の対比が凄い! パワフルなV8ツインターボ・エンジンを積むRS6アバント・パフォーマンスと、アウディの未来を象徴するともいえるBEVのSQ8 スポーツバックe-tron。誇り高きフォーリングスをフロントグリルに戴く2台のスポーツモデルを乗り比べることで見えてくる「アウディの走りの哲学」を理論的に解き明かそうというのが、本稿の主旨である。 まずは、アウディの“伝統的”なハイパフォーマンスモデルであるRS6を走らせてみる。 ◆これこそがアウディの味 ボディーサイドから大きく張り出したブリスター・フェンダーでもカバーしきれないくらい巨大な22インチ・タイヤを履いたRS6の出で立ちには、なかなか“いかつい”ものがある。けれども、巧妙なセッティングのエアサスペンションが路面からの振動を効果的に遮断してくれるおかげで、かつてのRS6に比べればゴツゴツやガツガツといったショックは格段に小さくなって、快適性は大幅に向上したように思える。 いや、実はこれこそがRS6本来の姿で、本国ではオプションとなるスポーツ・サスペンションを標準装備していた従来の日本仕様のほうが“異端”だったというべき。そもそも、1983年にデビューした“初代RS”のRS2アバントも、ダンピングがよく効いた「骨のあるソリッド感」とハーシュネスの軽さを両立させた快適性の高さにこそ、その真骨頂はあった。 これとともにアウディの特徴というべきなのが、高速道路でもワインディング・ロードでも遺憾なく発揮されるスタビリティ感にある。 世界に先駆けてフルタイム4WD技術をロードカーに適用したアウディのクワトロは、エンジン・トルクを四輪に配分することでタイヤに要求される縦グリップを低減。これによって得られる横グリップの余裕を生かして、直進時のスタビリティやコーナリング性能を改善することにその最大の特色はある。 しかも、フルタイム4WD技術を40年間にわたって熟成する過程で、そのメリットを最大限に引き出すには4輪のロードホールディング性が重要な鍵を握っていることに気がついたアウディは、車両の基本設計から足回りの最終チューニングに至るまで、ロードホールディング性の改善に徹底的に取り組んでいくことになる。これがさらなるスタビリティの高さにつながり、アウディならではの安心感を生み出してきたといっても過言ではない。 アウディでもうひとつ特徴的なのが、そのコーナリングフォームだ。「タイヤが路面に張り付いたようなコーナリング」というのは我々自動車メディア関係者が使いたがる表現のひとつだが、アウディの場合は前述した理由でタイヤの接地性が高いだけでなく、コーナリング時のロール感に腰高なところがまるでない。いや、それどころかボディーが半ば地中に埋まってしまったかのような安定したフォームを保ってコーナーを駆け抜けていく。しかも、たとえ路面に多少のアンジュレーションがあっても、同じく4輪の接地性が優れているがゆえに、コーナー進入時に一旦ステアリングを切れば、その操舵角を保ったままきれいな弧を描いてコーナーを駆け抜けていける点もアウディの特徴のひとつといえる。 こうして見てくると、アウディはコーナリングにせよ高速クルージング時にせよ、その安定性の高さに最大の特色はあると結論づけることができる。そしてそれらを技術面で支えているのがフルタイム4WD技術と優れたロードホールディング性ということになるだろう。 また、乗り心地面でいえば、足回りのダンピング性を高めることでボディーの上下動を一発で収束させる振動減衰性の高さも、その特徴のひとつ。おかげで、うねった路面を高速で通過しても視線の上下動は短時間で完了。身体が揺さぶられている時間も短くて済み、これが長距離移動に伴う疲労を最小限に留めてくれるのである。 ◆「秘伝の味」は変わらない そうしたアウディ独自のカラーは、BEVに生まれ変わったSQ8にもそのまま引き継がれているといって構わない。むしろ、エンジン車より重心高が低いBEVは、相対的に足回りのロール剛性を下げられるため、路面から伝わるゴツゴツ感をさらに低減することが可能となる。RS6から乗り換えたとき、SQ8のほうが乗り心地が滑らかでソフトな印象を受けるのは、2台のロール剛性の違いに起因しているはずだ。 このような特性のハンドリングや乗り心地を守り続けるため、アウディには製品の味付けを決めるドライビング・ダイナミクス担当が4人いて、彼らがお互いの仕事振りを相互に確認することにより、どんな環境でどのモデルに乗っても共通の「アウディらしさ」が感じられるように仕上げているという話を、先日のA5/S5国際試乗会の際に聞いてきた。「秘伝の味」は、こうして守られているのである。 そうしたアウディという大枠のなかで、RS6やSQ8といった個々のキャラクターは生み出されていく。 たとえば、630psと850Nmという強烈なパフォーマンスが与えられたRS6は、どんな車速域であろうと豪快な加速を披露してくれるほか、ハードコーナリングでは車重が2.2トンもあることが信じられないくらいステアリングを用いた修正が容易で、思い切ってタイヤの限界を引き出したくなる衝動に駆られる。 いっぽうSQ8はどこまでも静かで、乗り心地も滑らか。おかげでハイウェイをクルージングしていると気持ちがスーッと落ち着くとともに感性が研ぎ澄まされ、普段は見落としがちなちょっとしたことに気がついたり、新たなインスピレーションを得る機会が増えるような気がする。 もちろん、ワインディング・ロードでは正確なハンドリングとスタビリティの高さをもたらしてくれるが、2.7トンの車重が生み出す巨大な慣性力はいかんともしがたく、限界的なコーナリング時にステアリングなどで修正できる余地はRS6よりも小さいように感じられる。このため、ワインディング・ロードではややマージンを残した走りとなるはず。個人的に、2台のドライビング・ダイナミクスにおける最大の違いは、この点にあるように思われた。 アウディの走りを理論的に解き明かすという主旨からはやや離れるが、デザイン性や質感の高さもアウディの魅力のひとつといえるだろう。 とりわけプロポーションが優れていて、無駄な装飾を与えずとも美しいと感じさせるエクステリア・デザインは秀逸。3次元的造形のうまさもアウディの特徴で、たとえば立ち位置を少しずつ変えながらリア周りのデザインを眺めても、彫刻的な美しさが破綻することはない。 いっぽうのインテリア・デザインは緻密さや精度感の高さが魅力的。おかげで派手なデザイン・モチーフを使うことなく魅力的な室内空間を生み出しているように思う。 そうしたアウディのデザインや走りの哲学は、いずれも上品で、しかも際だって知的。そしてその点にこそ、アウディというブランドの真価があるように私には思える。 文=大谷達也 写真=神村 聖 (ENGINE2024年12月号)
ENGINE編集部
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