舟木一夫さんのファンを大切にする人柄と、噛みしめるような一言一言に「達観」を感じた(本多正識/漫才作家)
【お笑い界 偉人・奇人・変人伝】#213 舟木一夫 ◇ ◇ ◇ 「元祖御三家」「万年青年」、79歳の現在も変わらぬ歌声を聴かせてくださる舟木一夫さん。60代半ばの私には文字通り「憧れのスター」です。 【写真】森進一「襟裳岬」<前>思いつきの企画でセールス100万枚超 そんな舟木さんにお会いしたのは20年以上前のテレビのトーク番組でした。「神経質そうな方」という勝手なイメージを持っていましたが、打ち合わせスペースに現れた舟木さんは大きな声とこぼれるような笑顔で一礼されて「答えられることは答えますから、なんでも聞いて下さい。当たり前か!」と自らボケて大笑い。 「漫才作家」の名刺をお渡しすると「漫才にも作家がいるんですね。歌い手にとっての作詞、作曲の先生と同じですね」と言っていただき、「決まった方の漫才を書かれてるんですか?」「発注があれば誰のでも書くの? 凄いな!」と“逆取材”のように興味を持ってくださいました。この時にご自分のことを「歌手」と言わず「歌い手」と言われたことがとても印象に残っています。子供の頃からファンだったので、握手を求めると「僕なんかでよければ、ありがとうございます」と応じてくださり、予想以上に大きな温かい手で、それも両手で力強く握ってくださいました。 舟木さんが登場されると、会場にいる50人ほどのお客さんから、いつもとは明らかに違う大歓声と大拍手が。聞くと、ファンクラブの会報で事前に知っていたとか。インターネットの普及していない時代に、ファンの方の情報収集のすごさに驚きました。しかも、一番遠い方は仙台からお越しで、舟木さんのコンサートは全部ついて回っておられるとのこと。今思えば“追っかけ”のはしりです。 「ありがたいですね。ファンの方がいてくださってこそ成り立つ仕事ですから、本当に感謝しかありません。バカなこと(自殺未遂)もしましたけど、生かしてもらった命のある限り歌ってみなさんに喜んでもらいたいですね」。噛みしめるようにおっしゃる一言一言に、いろんな苦しみや葛藤を乗り越えてこられて人生を「達観」されているように感じました。 トーク中にも自然な流れでファンの方に語りかけられたりする姿に、ファンを大切にされることでも有名な舟木さんの人柄がにじみ出ていました。 まもなく傘寿を迎えられますが、まだまだその歌声を聴かせてくださることをいちファンとして願っています。 (本多正識/漫才作家)