なぜ日本のジョセフHCはスコットランド戦を前に怒りをぶちまけたのか?
日本代表もまた、グラウンドで勝負をつけたいとする。台風による中止を前提とするよりも、台風一過のグラウンド状況を踏まえて準備。地面がぬかるみ強風にさらされそうななか、日本代表の右プロップの具智元は持ち場のスクラムを見据え「(スパイクの)ポイントの長さを確認する。滑らないよう、足の位置にも気を付けたい」。控えスタンドオフの松田力也は、陣地獲得へのイメージを口にする。 「風上、風下、横風と色々あるなか、使う(べき)キックの種類(球筋など)は変わってくる。ゲームを見て判断したいです」 もしスコットランド代表に負けても得られるボーナスポイントによっては目標に届く(7点差での敗戦もしくは4トライ以上奪取で勝ち点1ずつ取得できる)。それでもナンバーエイトの姫野和樹は、「必ず勝って、堂々と決勝トーナメントに食い込みたいです」と言う。 「負けて(決勝トーナメントに)行くという選択肢は考えていないです。今後もベスト8を狙っていくのなら、次は絶対勝たなきゃいけない。そういった意味でも(次戦は)大切になる」 ジェイミー・ジョセフヘッドコーチもまた、各国であったとされる日本代表へのネガティブな報道に「プール戦3勝はまぐれではなく、これまでのハードワークの成果」と反発。さらにこう続けた。 「(日本代表では)選手が企業チームに属している。そのほとんどはプロ選手ではありますが、代表活動期間中は1日1万円の日当でやっている。アマチュアと言えます。他国がそれと比べてどのくらいの報酬を得ているかは皆さまで計算して欲しい。世界のエリートと認められるくらいのプレーをしてきたと思っています。月曜の朝に起きた時に我々が8強にふさわしかったか、そうでなかったかがわかる」 日本代表の勝利ポイントはスペースを射抜く攻撃戦術と順法精神だろう。
ジョセフの右腕となるトニー・ブラウンアタックコーチは、現体制発足から約3年間の積み上げをベースに相手の嫌がる戦略を示している。 アイルランド代表との第2戦では、自分たちからボールキープをすることで相手のボールキープ力を最小化。パワフルなサモア代表とぶつかった第3戦では、グラウンドの奥側へのキックを多用し、向こうの体力の消耗を狙った。攻撃陣系もめまぐるしく変え、多彩な種類のパスも駆使。世界中のファンを喜ばせる。 その流れは次戦でも変わらないはずで、初先発のウイングの福岡堅樹は「毎試合、違う準備をするのは慣れていますし、自分自身も『今回はどういうものだろう』と楽しみに待っている」。スコットランド代表側が「しっかり防御を固めたい」「セットプレー(攻防の起点)で圧力をかけたい」と警戒するなか、キック補球後などのアンストラクチャーと呼ばれる状態からも組織的に攻める。 それと付随して、相手が球を蹴る瞬間にも鋭く圧をかけ、自分たちの望む位置でカウンターを仕掛けられるようにしたい。接点から多彩なキックを蹴る相手スクラムハーフのグレイグ・レイドローは、「風が強くてもちゃんと蹴る自信がある」と不敵に笑うなか、松田は「常にプレッシャーをかける」と構える。 ふたつ目に挙がる順法精神とは、レフリーに反則を取られないことだ。 チームはワールドラグビーから巡回のレフリーのクリス・ポロック氏の助言を重宝。アウトサイドセンターのラファエレ ティモシーは「オフサイド気味な位置に立ってしまう自分の悪い癖を修正してもらいました」。今大会、相手より多く反則を犯したことは1度もない。 スコットランド代表戦でも反則を減らし、レイドローに正確なペナルティーゴールを蹴らせぬ展開に持ち込みたい。判定の難しいスクラムについても、左プロップの稲垣啓太は「僕らは僕らの積み上げてきたディテールを遂行する。80分通していい時、悪い時もありますが、そのなかでどういい方向に持っていけるかが鍵」と話す。 開幕戦以来のゲーム主将となるブラインドサイドフランカーのリーチ マイケルは、当日の笛を吹くベン・オキーフと同じニュージーランド出身。最近の出来事を思い出し、こう微笑む。 「今週、(スクラムハーフの)流大が規律を意識していた。練習の時もその部分でチームを怒ったりしていたので、いい規律ができていると思います。ティア1(強豪国)に勝つには鬼にならなきゃいけない。優しい気持ちは必要ない」 新しい扉に手をかけるホームチームの精鋭と、淡々と意気込むアウェーチームの面々…。参加するすべての人が多様な思いを詰め込む注目の一戦は、当日の午前中に試合実施の可否が決定されることになっている。 (文責・向風見也/ラグビーライター)