新潟を初の決勝に導いた松橋力蔵監督の人間力。真摯な姿勢で選手を導く妥協なき“モチベーター”【番記者コラム】
選手に求めるのは「自分の色」を表現すること
チームの強みは誰が出場しても新潟スタイルを表現できることにある。誰かが離脱すれば、代わりにチャンスを得た別の誰かがヒーローになる。今季は、初先発を任された試合でゴールを決めた奥村仁や石山青空が、その象徴だ。途中投入された選手によるユニットで追加点を取る場面も、ここ3年はたびたび見られる。 それを可能にしているのが「全員戦力」を掲げ、実践する松橋監督の手腕に他ならない。実際、今季は特別指定の2選手を含め、ほぼ全員が公式戦に出場。ルヴァンカップでは、怪我人が続出した時期に行なわれたファーストラウンドのように、ベンチ登録できる18人ぎりぎりで臨む苦しい試合もあった。しかしそのたびに、長谷川巧や星雄次などリーグ戦で出番の限られていた選手がチームを助けた。まさに「全員戦力」でトーナメントを勝ち上がったのだった。 松橋監督がコーチとして横浜から新潟に赴任したのは21年。当時はアルベル前監督の下、主に試合当日のメンバー外選手の練習を担当した。出番に恵まれず燻る選手のポテンシャルは、そこで把握できていた。 翌年、監督に昇格すると、日々の練習に目を配りつつ、メンバー外選手の練習映像も逐一チェック。スタメンを固定せず、各々のピッチ外での一挙手一投足まで注視し、出場選手を選んだ。するとメンバー外の選手たちも「見てくれている」とモチベーションを落とすことなく練習に打ち込んだ。しっかり“見ている”からこそ、起用がハマり、選手は結果を出して自信をつけた。そして、競争意識が高まる好循環が生まれた。 松橋監督が選手に求めるのは「自分の色」を表現すること。プロ選手も、元々はボールを蹴るのが好きなサッカー少年だった、というのが彼の考えだ。遊びから始まり夢中で練習し、他の人より少し上手くなった。だから今ここにいるのだと。それゆえ「選手たちには楽しむ心を忘れてほしくない」と語る。 そんな指揮官の下で自分らしさに磨きをかけ、飛躍を遂げた選手は少なくない。新潟から欧州へと巣立った本間至恩(クラブ・ブルージュ/ベルギー→浦和)、伊藤涼太郎(シント・トロイデン/ベルギー)、三戸舜介(スパルタ・ロッテルダム/オランダ)がその好例だ。今季は秋山裕紀がリーグトップのパス本数を記録するなど、選手が個々の色を着実に示しつつある。 ルヴァンカップ決勝・名古屋戦でも、まさに自分らしさを表現したのは小見洋太だ。1点ビハインドで迎えた後半アディショナルタイム、自ら得たPKを90+11分に沈め、延長戦に持ち込んだ。PK獲得に至ったのは、小見らしい仕掛けから。「パスを受けて後ろを向く選択肢も合ったなかで“自分の色”を出そうと仕掛けたことで、生まれたPKだった」と振り返る。そして貴重な同点弾となったPKのキックにも、小見の色がしっかり付いていた。昌平高時代の全国高校サッカー選手権でも話題となった、独特な小刻みな助走から蹴る姿を見せたのだ。 新潟にはビッグクラブのように日本代表選手や強力な助っ人が揃っているわけではない。しかし、選手の個性を最大限に引き出しつつ、組織としての機能性を高めることで、ピッチの上で魅力的なパスサッカーを表現し、ルヴァンカップ準優勝というひとつの成果をもたらした。 しかし指揮官は「日本には、敗者の美学みたいなものがありますが、そういうストーリーに逃げてはいけない」と言い切る。 「勝てなかったことがすべて。いろいろ評価していただいていることはありがたいですが、タイトルを取れなかったところ、どうしたら取れるのかというところからは、目をそむけてはいけないと思います」 松橋監督の追求と挑戦は続いていく。 取材・文●野本桂子(フリーライター)
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