【プロvs素人】データを重ねたら一目瞭然! フォーミュラカー走行で実力差の出るポイントは一体どこなのか
ロガーデータで走りを分析
こちらは走行4本目に記録されたロガーデータで、青が伊藤監督、赤が筆者のデータだ。そして上から車速、ステアリング舵角、ブレーキ踏力、アクセル開度、タイムギャップの推移が記されている。 グラフ3段目の右端(赤丸)が、大きく左に回り込む1コーナーに向けてのブレーキ踏力だ。青の線で示した伊藤監督のデータは波が高くなるのが遅く、なおかつ高さのピークも大きい。これはブレーキングで奥まで突っ込み、強くブレーキをかけている証だ。対して赤の線はそれより早い段階で減速を始め、なおかつ強くブレーキをかけられていないのがよく分かる。赤丸の真下、最下段にあるタイムギャップを見ても、ながらかだったグラフが当該箇所で急上昇している。ここで一気に差を付けられているということだ。レーシングカーの重いブレーキで急減速するには強い踏力が必要という面もあるが、フルブレーキングでスタビリティを失うかもしれないという恐怖心を振り払うのが何より難しく感じた。 ブレーキの甘さは、コース後半にあるヘアピン状の区間でも顕著であった。ここはそもそもコーナーのエイペックス(頂点)が見えにくいためライン取りが非常に難しく、富士スピードウェイの13コーナー~GR Supraコーナーを想起させる。まさに“いやらしさ満点”といったところだ。 先ほどと同じくグラフの3段目、青丸で囲んだ箇所がそこでのブレーキ踏力だ。やはり青の伊藤監督のブレーキの方が強く、鋭い。そのすぐ下にあるアクセル開度を見ても、青のグラフの方が早いタイミングで上昇している。つまり、すぐに車速を落とし切った伊藤監督が迅速に加速に入れたということ。さらにその下段のタイムギャップを見ても、そこから先のグラフの山が急坂になっているため、立ち上がり区間でかなりの差をつけられたことが分かる。 「もう少しブレーキが来てほしいですね。なだらかにブレーキを踏んでいる分、ブレーキをリリースしがちで、それによって逆に車速がふわっと乗ってしまう。また最初のブレーキの踏み始めが早いと、途中がプアになってしまうんですよね(伊藤監督)」 また、1コーナーを抜けるとその先にはすぐに緩い左カーブがある。一見すると簡単なコーナーに見えるが、ここでも伊藤監督との走らせ方には違いがあった。 当該区間はアクセルを踏みながら旋回するため、車両のスタビリティを感じづらい。そのためいつしか、軽くスロットルを開けた状態でキープし、そのスロットル開度のままでコーナーをクリアするようになっていた。それはひとえに、“安心感”があったからだ。 しかしそれではタイムを削ることはできない。グラフの緑の丸で囲んだ箇所を見ると、伊藤監督はコーナーのエイペックスの手前で一旦スロットルを戻して加速に入っており、それがコンマ1秒ほどの差を生み出しているのだ。そのカラクリは“荷重移動”だと伊藤監督は解説する。 アクセルを踏んでいる時は、駆動輪であるリヤタイヤに荷重が乗っている。相対的にはフロントタイヤに荷重があまりかかっていない状態であり、“フロントが入らない”、つまりフロントのグリップが足らずに旋回しづらい状況にある。しかし、そこでアクセルをオフすると、エンジンブレーキがかかり車両は前のめりになる。つまり荷重がややフロントに寄る=前輪がグリップして旋回しやすくなるのだ。 「(緩くアクセルを踏み続けると)リヤが安定しますが、フロントが曲がってくれず、速度も上げていけないという状況が続いていましたね。一発(アクセルを)オフすると、そこで曲げて、(車両が進行方向に向くことで力強くアクセルを)踏んでいくことができます。この辺は難しいので、慣れですね」 このように、ロガーデータを見ながらプロにコーチングを受けることで、自分自身の走りの弱点をよりハッキリと感じることができた。とはいえ、その弱点をすぐに修正できるかはまた別の話だ。最後の走行セッションは体力的にも厳しく、脳をフル回転させて考えながら走る余裕なんてまるでなかった。次に挑む際には、体力面のトレーニングを積む必要がありそうだ。 言い換えると、強い身体的負荷を受けながらも高い集中力を維持して思考を巡らせ、長時間走り続けられるレーシングドライバーの凄さを痛感できる。そういう意味でも、このプログラムを受ける価値はあると言えるだろう。
戎井健一郎
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