低山でなぜ登山事故? 山歩きライター岡弘さんに聞く
分岐点では必ず「道標」で進路の確認を
次は情報収集。岡弘さんが登山コースを点検する際、もっとも注意を払うのは道標だ。 「登山事故の主要原因のひとつが道迷い。分岐点で枝道に迷い込んでしまうと、事故につながりやすい。土砂災害などで通行止めになっているケースも想定しなければならない。何度も登っているベテランでも、分岐点では必ず道標で進路を確認してほしい」 岡弘さんは著書で道標を明記。「山上へ約2・0km」などと、道標の文言まで書き込んであるガイドブックはきわめて珍しい。 3つ目の体力対策。目標達成感が登山の魅力のひとつだが、無理や油断は禁物。 「ベテランを含めて、登山事故の7割は下りで起きている。晴れて登頂した後、下山する際に気がゆるんで油断しがち。下りは体力が低下し、体重や荷物の重さが膝にかかるため、けがをしやすい。疲れたと感じたら、無理をしない。ケーブルカーなどがある場合、上りは歩いて登り、下りはケーブルカーを利用することをおすすめします」
山を歩くと免疫力がアップし心身が活性化
岡弘さんは1947年生まれ。フットワークを生かすフリーライターとして活動してきたが、40代を前に体力の衰えを痛感。若いころの登山経験を生かし、健康管理と家族サービスを兼ね、当時小学生の長男らと近郊の山へ足を伸ばすようになった。 芸能記事の注文に応じていた夕刊紙の幹部から「山を歩いているなら、サラリーマン向けの山歩きルポを書いて」と誘われて連載記事を手掛けるうちに、山歩き取材がメーンに。コースの点検のためなら、正月返上で山を目指す。今では「関西の山をいちばん多く登っているライター」と評価されるほどになった。 手のひらサイズの取材ノートに、コースの情報を現場で丹念に書き込んでいく。昨年、うれしいことがあった。今春の2冊同時刊行のため、例年にも増して山歩きに打ち込んだところ、慢性的になりかけていた膝の痛みが和らいだという。 「登山コース踏破の最速自己記録を、60代半ばで更新できた。山で見る若葉や紅葉の美しさは写真と比べようがない。太陽光を浴びながら運動する山歩きは、免疫力がアップし、心身ともに活性化します」 新緑薫る季節。山を歩く充実のひとときを、安全に満喫したいものだ。岡弘さんの新刊本は主な書店で販売中。くわしい情報は実業之日本社販売本部(03・3535・4441)へ。